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ギガンテス族長との戦い【12】

「ああ、リダさん。こちらにいらっしゃいましたか」


 落ち着きのある声音が、私の耳に転がって来た。

 声の主は、


「兄貴か」


 パラスは短く自分の兄……アウロスさんへと言って見せる。

 表情は、いつもの無愛想な顔に戻っていた。


「パラスもいたのか……リダさんに失礼な事はしていないだろうな?」


「兄貴とは違うんでね」


 品格を感じる、清楚な振る舞いを見せるアウロスさんを前に、パラスは皮肉めいた言葉を返した。

 パラスの視点からすれば、そうなるのだろう。

 色々な深い事情があったとは言え、私達を邪険に扱っていた張本人であったのだから。


「その点については耳が痛いな……だが、こちら側としても相応の理由があった。そこだけは理解して欲しい」


「ああ、大丈夫だ。もちろん分かってるよ」


 落ち着いてはいるが、そこかしこに謝意の言霊を込めて声を吐き出すアウロスさんへと、私が即座に彼の酌量を認める返答をして見せる。

 アウロスさんからすれば、私らは全くの他人であり、完全なる余所よそ者だ。


 そんな赤の他人を自分達の内紛に巻き込みたくなかったと言う真摯な態度は、むしろ私にとって好感に繋がっていた。

 相手を思いやり、誰よりも優しく穏やかでありつつ……しかし、相手の為なら悪役を演じる事すらいとわないその生きざまは、感銘を受けるまでに素晴らしい。


 人間、こうあるべきだと私は思ったね。

 だからこそ、私は助けたいんだ。

 

「アウロスさん。これからの予定を軽く聞いて置きたい」


「そうですね……予定では、これから島の住民を集めて防御壁を製作したいと考えております」


「……ほぅ」


 なるほど。

 徹底抗戦をするつもりか。


「昨日までの自分は、滅亡する事を運命と決め付け、滅亡へと進む時の流れにただ身を委ねるだけの存在でした……しかし、今の私は違う。例え滅亡が我らに与えられた運命であったとしても、自分達で出来る限りの足掻きをして見せて……最善を尽くしてからでも遅くはないと言う事を思い知らされました」


「そうだな。やりもしない内に、最初から諦めるのは一番やってはいけない事だと、私も思う……けど、だ? アウロス族長」


 私はここで言葉を切ると、ドが付く程の真剣な顔になってから、再び口を開いた。


「一つだけ訂正するべきだ……滅亡の運命なんてない! 運命とは……未来とは、常に変動する。だから絶対に生きて、この争いを終結させるんだ!」


「……本当に、貴方達は……なんと言うか、驚く程に凄い人達だ」


 力強く断言する私に、アウロス族長はどうにも複雑な顔を作っていた。

 泣き笑いと言えば、一番近いだろうか?

 とかく、感動してるのかただ泣きたいのか? それとも純粋に嬉しいのか……良く分からない顔になっていた。


 ともすれば、その全てがごちゃ混ぜになった結果の顔であったのかも知れない。


「……やりましょう! ゴク族とゴグマ族が攻めて来るのは、私なりにある程度の予測は付いております」


「そうなのか?」


「ええ……やつらにまだ巨人としての自覚とプライドがあったとするのなら……やつらが攻め込んで来るのは十日後……この聖地が生まれたとされる日です」


「そんな日があったのか」


 まぁ、その地方によって独特の神話と言うか逸話や寓話はあるだろうし、そう言った伝承の中で生まれた記念日と言うのは、この島だけではなく他の地方でも多数存在しているだろう。

 

「私の屋敷にある倉の蔵書を調べると……これまで千年の長きに渡ってゴク族とゴグマ族の脅威から聖地を守りきった偉人伝の歴史が記されております。この偉人伝によると、ゴク族とゴグマ族は一部の例外を除けば、必ずこの島が生まれたとされる『始まりの日』に、聖地奪還作戦を開始していると記されてあります」


「そうか……すると、今回もご多分に洩れる事なく、その日に……」


「十中八九、そうなると自分は考えております」


 アウロスは、確信めいた顔をして私に言った。

 ふぅむ……そうか、そうなると……。


「時間がないな」


「そうですね……既に一部の巨人は、防御壁を製作する為の資材を集め始めております。これからはかなり忙しくなりそうですね」


 言い、アウロスは苦笑した。

 しかし、その瞳には覇気があった。


 ……希望の二文字が、瞳の中から生まれていた。


「……良い顔する様になったじゃないかよ? 兄貴」


 そこでパラスが、ちょっとおどけた口調で声を出して見せる。


「そう言うお前は、自分も知らない内に生意気な口をきく様になったんだな」


 他方で、アウロスが嘆息混じりに冗談めかした声音を返した。

 こうして見ると……ああ、この二人は兄弟なんだなって思えた。


 兄が弟に対して見せる他愛のない会話……そんな表現が出来る様な光景が、私の前に出来上がっていた。

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