ギガンテス族長との戦い【11】
「……で? パラスはあれからずっと牢屋にいたのかい?」
「こっちではそうなってるんだな」
「ああ、そうなるのか」
パラスの言葉に、私は納得した。
恐らく監禁こそされていたのだろうが、流石に投獄まではされていなかったのだろう。
そこまで酷い事をする兄貴には見えなかったからな。
「あれから俺は、里の中にある兄貴の屋敷……つまり、ここに真っ直ぐやって来たんだ」
パラスは、ここに初めてやって来てから以降の話しをしてみせる。
「兄貴の屋敷にやって来た俺は、やっぱり真っ直ぐ兄貴の部屋に向かった……そして、あの時点では噂レベルの話しをした」
パラスは、ここまで言うと目線を下に落とした。
「……兄貴は全てを知っていた。ギガンテスのクソ族長が、既にゴク族とゴグマ族と組んでいる事を含めてな……その上で行くと、もう里を守る事は絶望的だった。兄貴は里の滅亡を既に悟っていて……しかし、抗う事すら出来ない末期な状況だと考えていた」
そこで、弟の登場……と。
「兄貴は俺が帰って来て、最初こそ喜んでくれたんだが……そこから先はすぐに里から離れろの一点張りだった。何を言っても聞いてくれない……しかも、お前達の存在を里の兵士から聞いてから、今度は屋敷の部屋に連れられ、そのまま閉じ込められてしまうんだ」
パラスは独白混じりに答えた。
多分、パラスは族長……アウロスさんから多くを聞き過ぎたんだと思う。
それだけに、私達に余計な事を言ってしまう危険性があったんだ。
その後、パラスなりの考えを含めた話しを軽く耳にした。
内容をかいつまんで言うと、こんな感じだ。
アウロスさんは全てをパラスに話した上で、パラスを説得しようとした。
この里はもう滅亡してしまうから、早々に元いた場所に戻って、お前だけでも平穏に暮らしてくれと言っていた。
しかし、パラスは引き下がらなかった。
むしろ、この里を救う目的で里帰りをして来たのだから、当然このままオメオメと帰る訳には行かなかった。
ついでに言うのなら、里を救う仲間までいると言う事をパラスは伝えてしまった。
……その後、ギガンテスの族長にまで情報が入っていてしまっていて、事態は面倒な事になりつつあった。
ここで、もしティタン族の人間が里を救う為に人間を里に呼んだと言う形をギガンテスの族長に伝わったら一大事だ。
ゴク族とゴグマ族の内通者に成り下がっていたギガンテス族長だけに、この情報を島の向こう側に持ち出すのは必死だ。
そうなったら、例え島から外に出ても、ゴク族とゴグマ族の連中に狙われかねない。
そこで、アロウスさんとしても、このまま素直に返す訳にも行かなくなってしまったのだ。
聖地でもある里に巨人以外を連れて来た時点で、本来なら彼等にとっては問題であったかも知れないが……しかし、曲がりなりにも弟の友達だ。
アウロスさんの守護霊からも分かるのだが、優しい性質を持っていた彼は、どうにかして安全に自分の住んでいる所へと帰らせる方法を考えていた。
かくして。
「俺はこの屋敷に隔離され、リダ達の所に行く事が出来ず……今に至る感じだ」
パラスは申し訳ない顔をアリアリと見せながら答えていた。
まぁ、気持ちは分からなくもない。
自分の里を救う為に助けて欲しいと言っていた言い出しっぺが、結局何もしないで、今まで屋敷に閉じ込められていただけだったんだからな。
でも、そこはそれだ。
そんなにしょげるな。
その為に、私達がこの里にやって来たんだからな。
「不甲斐ない自分が、本当に申し訳なく思える……すまない」
「大丈夫だ。頭を上げておけ。問題は決して暗転なんかしてないんだからな。まだまだ十分行ける。任せておけ」
深々と頭を下げて来たパラスを前に、私は穏和な笑みをやんわりと作って言う。
すると、パラスはいつになく愛想の良い笑みを私に向けた。
普段から無愛想なヤツだっただけに、こんな顔も出来るんだなと、心の中でつい嘯いてしまった。
「ありがとう……お前らをここに誘う事が出来て、俺はかなり幸運だったと思う」
「どうだろうな?……まぁ、ある意味で偶然が色々あったから、幸運とも表現出来るかもしれないな?……だけど、それはパラスの幸運だけじゃない。私にとっても幸運だ」
「……お前にとっての?」
「そうさ。私にとっても、人間と人間以外に現存する全ての存在、概念、生物達がみんなで協力し合える世界……その一歩をしっかりと踏み出す事が出せた訳だからな」
「……そうだな」
穏やかに答えた私に、パラスもやんわりと微笑みながら頷きを返した。




