ギガンテス族長との戦い【10】
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数時間後。
私達はティタンの族長が住んでいる屋敷へと招待される形でやって来た。
予想以上に素朴だった。
ギガンテスの族長が住んでいた屋敷は、やっぱりどこか原始的な素朴さが存在していたが、それとは別に華やかと言うか……妙に高級感のある代物があちこちに存在していた感じがした。
他方の、ティタンの族長が住んでいた屋敷は建物こそ大きく、おごそかな雰囲気等も感じられる部分があったのだが、根本的にオブジェや嗜好品の類いが一切存在しておらず、なんとも質素なたたずまいになっていた。
ティタンの族長いわく『質実剛健』なんだそうだ。
なるほど、しっかりしている族長だな。
屋敷の中にある客間だけは少しだけ調度品が飾られていて、心なしか華やかにも感じられた。
ギガンテスの族長からすれば比べるまでもないが。
結構な空間がある客間にやって来た私達は、そこで全員の自己紹介などを踏まえた、簡素な晩餐会に参加する事になった。
特に意図していた訳ではないが、これは棚ぼたでもあった。
「……待っていたぞ、この時をっ!」
一通り自己紹介を続けた後、私は凛々と瞳を輝かせてからコブシを握りしめる。
私の前には様々な強度料理が、テーブルの上に所狭しと並べられていた。
それはそれは、どれもこれも美味しそうだ。
だが、しかし!
私にとって一番の注目は、なんと言っても酒だっ!
そうだ……そうだよ……私の目的で必要不可欠だったのが、これだったんだっ!
「……ふ。長かったなぁ……」
思えば、この里に来てからと言う物……おかしな出来事の連続だった。
ここに来て良かったと思える出来事が、果たして一回でもあっただろうか?
……いや、ないっ!
しかぁ~しぃっ!
ここに来て、ようやく念願だった巨人の里で作られた地酒が、私の前に一杯あるっ!
やばい……なんか、涙が出そうだ。
「どうしたのリダ? 一人で両手を握り締めながら涙をドバドバ流して?」
ああ、出てたのね……涙。
無意識に涙を流していた事実を教えてくれたのはフラウだった。
フラウは不思議そうな顔をして、私を残念な人と言うカテゴリーに頭の中で今にも分類しそうな雰囲気を醸し出してから声を出していた。
……まぁ、自分でもちょっとだけ残念な人間してたのは認めるけどさ。
「それにしても、すっごい良い人で安心したよ。義兄様は」
フラウはニッコリと朗らかな笑みをナチュラルに表現しつつ、その正反対なばかりの不自然な台詞をしれっと混ぜて来た。
「義兄様って……なんだよ?」
「さっき、自己紹介してたじゃない? ティタンの族長」
「へ? そうなのか?」
「……ちゃんと聞いてあげなさいよ……。アロウス・ティタンさんって名前で、パラス様の御兄様でもあるんだってさ?」
ほうほう。
なるほど、言われて見れば……なんとなくパラスと似てるな。
コーモランとブランダーみたいな全然似てない兄弟とは違い、こっちは普通に似ている兄弟の模様だ。
ついでに言うと、どうしてフラウが義兄様とか、ふざけた事を言っているのかが分かった。
「遠くない未来、ここが私の子供にとって父方の故郷になる場所なのか……って思うと、少し感慨深い感じがするかも」
「私は、それを真剣に思えるお前に驚きを隠せないぞ……」
取り敢えず、夢を見る事だけなら自由だし……頭ごなしに否定する気はないけどな。
「ここにいたのか」
程なくして、パラスの声がやって来る。
「なんてか、地味に久しぶりだな……」
私はちょっとだけ皮肉を込めて答えた。
パラスは地味に苦い顔になった。
「そう言うなよ……俺だって、まさかいきなり牢に入れられる羽目になるとは思わなかったんだ」
「そうだよリダ! パラス様だって、色々と考えがあって行動してたんだから!」
ああ、そうですか……。
やや言い訳混じりに返答して来たパラスがいた所で、フラウが思いきり肯定して来る。
フラウは完全にパラス様ラヴだから、無条件で味方するだろうし……私は完全にアウェイ状態だ。
私はパラスから事情を聞きたいだけだったんだけどなぁ……。
「ともかく、パラスを非難するつもりはないから……ちょっとフラウは口を挟まないでくれ」
「なぁ~によぅ~? 私を除け者にして、パラス様と二人だけになるつもり? そうはさせないから!」
「……いや、違うから」
私は少し呆れ眼になっていた。
そこから間もなくパラスがフラウへと口を開く。
「すまないフラウ……後で埋め合わせはするから、ここは席を離れてくれないか?」
「はいっ! すぐ離れます、ソッコー離れます! だから、埋め合わせはよろしくお願いしますっ!」
フラウは文字通り、ソッコーで離れた。
余りに分かりやすい行動過ぎて草が生えそうになった。




