ギガンテス族長との戦い【7】
「やっぱり、持つべき者は同胞だ! 良いタイミングで来てくれた!」
さっきまでの態度はどこ吹く風……意気揚々と語るギガンテス族長を前に、私は思わず苦い顔になってしまった。
この場でぶん殴るのは簡単だが……どう考えてもそれは下策でしかない。
拘束しているパラスを連れて来ていると言う事は、明らかな人質として私達へと見せ付け様としているのだろう。
同じ巨人族を人質として盾にするとは……どこまでも腐った連中だ。
……そう。
腐った連中の『筈』だ。
しかし……この時、私は腑に落ちない気持ちになってしまった。
理由は、拘束しているパラスを連れて来た美形の青年にある。
彼の守護霊は……私が見る限りで驚く程に白く綺麗だった。
「兄弟でもあるギガンテス族の族長が危機に陥っているのなら、ティタン族の族長たる私がお前を助けないと言う事はない。もう大丈夫だ」
ティタン族の族長らしい美形の男は、爽やかな笑みをギガンテス族長に向けて答えた所で、私へと視線を向ける。
その瞳には明らかな敵対の意思が見えた。
うーむぅ……おかしいな。
守護霊を見る限り……決して悪い性質を持つ人物には見えないのだが、やってる事はかなり悪どい。
人を平気で罠に陥れ、あわよくば皆殺しにしてやろうと言う魂胆でいた下衆巨人を助ける為に、同族の巨人を拘束した挙げ句に人質として利用までしてるのだから、もはや言語道断だ。
反面、守護霊は嘘を吐かない。
彼の背後にいる守護霊は、やはり綺麗なばかりの白を私に見せている。
この妙な矛盾が、私には気になった。
「聖地を汚す愚かな人間どもよ……ここは貴様の来るべき所ではない。早々に立ち去れ!」
毅然とした態度で言う、ティタンの族長は誰が見ても分かるまでに、私達を威嚇していた。
場合によっては強硬手段だってやりかねない勢いがあった。
その時だった。
両手を縛られ、完全な拘束状態にあったパラスが、ティタンの族長に何かを言っていた。
スキルではないが、特異体質と言うか……地獄耳を持っていた私は、パラスが何を言っていたのかをハッキリと聞き取る事は出来た。
数百メートル向こうにいる人間の言葉を、しっかりと意図的かつ的確に聞き取る事が出来る、私の地獄耳に感謝したい所だ。
……が、今回ばかりは、少しばかり勝手が違った。
パラスが発していた言葉は、巨人族の言葉と言うか……この里でしか使われていない、特殊な部族言語を口にしていた。
せめて方言程度であるのなら良かったんだが……部族の言葉まで完璧に知ってる訳ではなかった私にとって、もはや何語だと言いたくなる様な謎の単語を羅列している様にしか聞こえなかった。
……参ったな。
お陰で、二人がさりげなく何かを会話していた内容が全く分からない。
きっと、ここが分かれば、私の中で発生している不可思議なわだかまりも、簡単に解消する事が出来る様に感じた。
まぁ、けど……分からない物は仕方ない。
私は無い物ねだりはしない主義なのだ。
……ちょっとしかっ!
「ふっふっふっ! さっきは良くもやってくれたなぁ……?」
少し悩む私の前で、ギガンテスの族長が威勢を完全に取り戻した状態で、下卑た笑みを私に見せて来る。
そこから、超巨大な棍棒を私に振り上げて来た。
本当に性格悪いなっ!
ギガンテスの族長が見せる守護霊は見るまでもなく汚い黒になっていたんだけど、こっちは全然不思議だと感じてないっ!
てか、むしろ納得だ。
ブゥゥゥゥンッ!
意気揚々と超巨大棍棒を私に打ち付けようとしたギガンテスの族長。
抵抗する気になれば当然の様に出来たし、反撃するつもりなら幾らでも出来た私だが……パラスを盾に取られている以上、下手に抵抗する訳にも行かない。
「ちくしょう……マジで汚いやつらだ」
私は甘んじてギガンテスの族長が放つ超巨大棍棒の一撃を受けようと、身構えていた。
「やめるんだ、ギガンテス族長!」
刹那、ティタンの族長が大声を張り上げた。
周囲に谺する程の声量で叫んで来たティタンの族長により、ギガンテスの族長は、手にしていた超巨大棍棒をピタッ! と止めて見せた。
見事な寸止め状態だったぞ……私の鼻頭に少し当たったかと見間違える位に眼前まで来ていた。
「何だよ、兄弟? お前は、俺を助けに来てくれたんじゃなかったのか?」
やや不貞腐れた顔になってギガンテスの族長は言う。
すると、ティタンの族長は嘆息混じりに答えた。
「そうだ。私はギガンテスの族長を助けに来た……よって、人間達を一方的に痛め付ける事を目的としていない」
答えたティタンの族長は、真剣な瞳をギガンテスの族長に見せていた。




