ギガンテス族長との戦い【6】
スピードもパワーも、他の巨人兵士と比較すると圧倒的に高い。
棍棒が私の近くまで来た瞬間に、戦闘が開始されると自動で発動する見えない壁が破壊された。
流石は族長をしているだけはあると思う。
思うんだけど、だ?
ガッッ!
……と、右手で超巨大な棍棒を受け止める。
同時に超巨大棍棒が止まった。
「なぬぅ?」
物凄く不自然に止まった超巨大棍棒に、ギガンテス族長は驚きと不可思議な気持ちで一杯になっていた。
悪いな族長よ。
私も力自慢な前衛タイプの冒険者なんだよ。
ガシィッッ!
私は棍棒を身体全体で押さえ込むと、逆に族長ごと振り回して見せる。
そのままジャイアントスイング。
「は? え? うわぁぁぁぁっ!」
ギガンテス族長からすれば、小さな人形みたいな存在が逆に自分の持っていた武器ごと身体を振り回されるとは思わなかったらしく、思わぬ事態に混乱しながら悲鳴を上げていた。
そこから十回転程度、回りに回った所で、私がパッと手を離す。
同時に、ギガンテス族長は空を舞い、数回転程まわった状態で地面に激突していた。
向こうも巨人族の上位に位置するだけあって、力には自信があったかも知れないんだが、この私が力で負けるなどあり得ない。
相手が悪かったとしか、他に言う事はないな。
「まさか……こ、こんな事……が……」
強引にグルグル回され、三半規管が麻痺したのか? 軽く手で額の辺りを触りながら身体を起こして行くギガンテス族長。
立ち上がりはしたが、足元はおぼつかずにフラフラの状態になっていた。
当然、隙だらけだ。
私は、なんとか立ち上がって来たギガンテス族長の懐に素早く入ると、
ドムゥッッ!
腹に一発。
強烈な鉄拳をめり込ませた。
「うごぁはぁっ……!」
悲鳴とも呻きとも取れる様な声音を吐き出して、ギガンテス族長は片膝を付いた。
「まだ、やるか?」
片膝を付いて、まともに立つ事も難しくなって来たギガンテス族長を前にして、私は悠然と歩きながら近づいて見せた。
「……う、うぁぁぁっ! く、来るんじゃねぇ! 化け物めぇっ!」
どうやら実力差を知ったのだろう族長は、恐怖で顔を歪めながらも叫んで見せる。
「化け物? お前の様な馬鹿みたいなデカブツに言われる筋合いはないんだが?」
「く、来るなっ! 来るんじゃねぇっ!」
ゆっくりと、一歩一歩と近付いて来る私を見て、段々と恐怖に顔を歪める色合いを強めて行く。
そして……最終的には、私に向かって謝る態度を取ってみせた。
「す、すいませんでした! この通り、謝るから許してくれ!」
「………」
とうとう卑屈な態度を取って来たギガンテス族長を前にして、私はゴミでも見るかの様な目でヤツを見つめた。
……やれやれ、つくづく下衆な野郎だ。
自分より弱いやつにはこれでもかと言うばかりに威張り腐るって言うのに、強いやつになれば途端に態度を変えて来る。
多分、コイツには本当の意味でのプライドなんか無いのかも知れない。
どんなヤツであっても、最低限のプライドだけは持っているべきじゃないのだろうか?
確かに、生きる為にプライドを捨てる時があるかも知れない。
自分のプライドを犠牲にしても守らないと行けない事だってあるのかも知れない。
けれど、コイツは違う。
そもそも守っているのは自分。
己の保身……これだけだ。
その為であるのなら、例え不条理な内容を言い渡されても、笑ってやってのけるんだろう。
卑しい人間の典型とも言えるな。
ここまで堕ちてしまったら、人としては最低と言える。
……まぁ、こいつは人間ではなく巨人ではあるんだがな?
「さて、貴様に試験結果でも言い渡してやろうか……」
そうと、ゆるやかに私が口を動かした時だった。
「そこまでだ、人間どもっ!」
不意に叫び声が転がって来た。
……? 何だ?
今一つ事情が分からなかった私は、声がした方角へと視線を移して見た。
視線の先にいたのは、長身の美形男子に拘束されている……パラスか?
「まさか、人質まで用意して来たのか……」
私は唖然となる。
何処まで性根の腐った事をすれば気が済むんだと言いたいっ!
「おおっ! 兄弟! 助けに来てくれたのかっ!」
他方、歓喜の声を大きく張り上げて来たのは、ギガンテス族長。
見る限り、角張った顔をしたゴツいオッサンにしか見えないギガンテス族長と、パラスを拘束しているイケメンなお兄さんが兄弟には見えないんだが……?
ふと、素朴な疑問が私の中に生まれていた。




