巨人の英雄・ブロンの試練【3】
そんなこんなで……私とユニクス、フラウの三人は、いつぞやブランダーが引き連れて来た数人の兵士を案内役として、ブロンの試練とやらの場所へと向かう事になった。
「……うーん」
途中、ユニクスは浮かない顔になって唸り声を上げていた。
「どうしたのユニクスお姉? 何か悩み事?」
どうにも難しい顔になっていたユニクスを見て、フラウが少しだけ気にする感じで声を出す。
昨日は真っ白だったフラウだが、一眠りした事でそこそこの回復を見せていた。
完全に疲れが取れたとは言えないかも知れないが、心配する必要は無さそうだ。
まぁ、良しとして置こうか。
「疑問がね? ちょっと色々あって……」
依然として、難しい顔を保ったままユニクスは言う。
「疑問? 例えば?」
「そうだね?……例えば、どうして三人になる必要があったのか? とかかな?」
「確かにどうして三人なのかって聞かれると分からないね」
ユニクスに言われ、フラウも『うーん』と悩んで見る。
ここに関しては、私も少し考えた。
予測出来る事は二つ程度ある。
一つは、三人以上でやると簡単過ぎて試練にならないから、人数制限をもうけたと言う事。
もしそうであるのなら、当然ながら人数制限を付けないと行けなくなる。
もう一つは……。
「リダ様、もしかしたら予測出来たかも知れないのですが……」
そこまで考えた時、ユニクスが顔を引き締めた状態で私に声を掛けて来た。
……ああ、ユニクスも思い付いたんだな?
私が考えた、もう一つの予測を、だ。
「そうだな。可能性として考えると……それもあると思う」
「……?」
ユニクスの言葉に私が頷く中、一人だけ良く分からないと言うばかりのフラウがいた。
まぁ、そこはだな?
「フラウには、もしそうなった時に教えるよ……まだ、可能性の段階だ」
まだ、前者である可能性だってある。
もし、三人じゃないと試験にならない試験であったのなら、私やユニクスが考えていた予測は大変失礼な物になってしまう。
口は災いの元だ。
ここは、そうなってしまった時に言う事にしよう。
「……なんか、私だけ除け者にされてる気分なんですけど?」
「そう言うな。遅かれ早かれ、ちゃんと教えはするから」
ちょっぴり不機嫌になっていたフラウを前に私は苦笑した。
そうこうしている内に、試験をする場所らしき所に到着したらしく、兵士の一人が私達へと答えて来た。
「ここが、ブロンの試験を受ける場所だ。我々巨人族にとって神聖なる場所でもある……粗相のない様にな」
極めて慇懃な態度で、私達に答えた兵士。
良く分からないけど、神聖な場所なんだな?
異文化育ちの私には、今一つピンと来ない。
そこまで魔力と言うか……霊験あらたかな場所には感じないんだけどなぁ。
連れられて来た場所は、洞窟でもなければ建物すらない。
強いて言うのなら、見渡す限りの平原だ。
地平線がある程ではないにせよ、周囲の向こう一キロ程度は原っぱしかない。
「なぁ? これの何処が試験だって言うんだ?」
「…………安心しろ」
どうにも謎だった私がいた所で、兵士がニィ……と笑う。
そんな兵士の顔は醜悪な物に豹変していた。
守護霊に至っては……酷いなこれ。
「えぇと、これはどんな試験なのですか?」
明らかにおかしな雰囲気が産まれている中、フラウは顔を引きつらせながらも兵士達に聞いて見せた。
「まだ気付かないのか? 試験など最初から存在していないのだ」
ああ、やっぱりそうなるのか。
私が予測していた後者の方が正しいと言う事になる。
恐らく、ユニクスも答えに到達していた二番目の予測。
それは戦力の分散だ。
どう言った話し合いがされていたのかは知らない。
だが、私達が脅威であると考えた事だけは間違いない。
そこで五人から、三人と二人に分ける事で相手の戦力を分散し、個別に撃破してやろうと言う戦法に出た。
巨人のクセに、やる事が小さいな。
まさか、本当にやって来るとは思わなかったぞ。
気付くと、他に隠れていたのか?
完全武装した兵士が十人程度増えていた。
更に、私達にとって、ある意味で理解は出来るけど納得の行かない現象が起こった。
私達を案内した数人の兵士はもちろん……完全武装でやって来た増援部隊の連中の全てが五メートルを越す巨人に変化を遂げたのだ。
これがやつら本来の姿であり、戦闘時には巨人として巨大化した状態で戦うのが普通なのだろう。
だけど、地味に理不尽さを感じてしまうのは、私だけだろうか?
「完全にヤツらの策にハマりましたね……」
ユニクスは苦い顔になって言う。
……だが、私は知っている。
苦い顔をするその瞳には、まだまだ余裕が存在している事に。
そこには、勇者ユニクスとして天啓を受けた、彼女なりの強さが存在していた。




