巨人の英雄・ブロンの試練【2】
「……はぁ?」
兄貴はポカンと、思いきり呆けた顔になった。
驚いているとこ悪いが、こっちもこっちで真剣なんだよ。
「いや、だから名前だよ? な・ま・えっ! お前の自己紹介がまだなんだよ。お陰で私はずっとお前の兄貴をしないと行けないんだ」
「……だから、俺はお前の兄じゃない……が、言いたい事だけは分かった」
やや喚き口調になっていた私を前に、兄貴は納得する感じの声音を返して来た。
「ブランダーだ。コーモランは俺の弟になる」
「ブランダーね? OK。私はリダだ。よろしく」
名前を言って来た兄貴……ブランダーがいた所で、私も自分の名前を名乗ってからスッ……と右手を差し出した。
「それは何の真似だ?」
ブランダーは不思議そうな顔になっていた。
ああ、こっちには握手をする文化がなかったのかも知れない。
「挨拶と言うか礼儀かな? 巨人の里にはなかったかも知れないが」
「ないな。どうあれ……俺はお前達と馴れ合うつもりはない」
愛想良く言った私に、ブランダーは憮然とした態度で答えて来た。
それにしても、コーモランの兄貴だったのか。
まぁ、兄貴って呼んでた訳だけど、そのまんまだったのな?
けど、なんてか兄弟って割には似てないな?
あっちは、厳つい武骨な男って感じだったけど、こっちはこうぅ……なんかスマートだよな?
思えば、パラスもスマートな顔立ちをしている。
コーモランだけ、可哀想な星の元に産まれて来てしまったんだろうか?
……などと、果てしなくどうでも良い、素朴極まる事柄を考えていた所で、ブランダーが私達へと口を開いて来た。
「今日は、お前達に試験を受けてもらう」
「……試験?」
藪から棒に、なにを言ってるんだ? このアホは?
「試練と言うと、テストと言う事になるのですが、何を目的としたテストなのです?」
「簡単な事。里にお前達を迎い入れるかどうかを試す為の試験だ……これは特例中の特例だぞ? 元来、この島に巨人以外が入って来る事を族長が許可する事自体、異例なのだ」
尋ねるユニクスに、ブランダーは両腕を組んだ状態でそうと答えて来た。
そして、地味に誇らしそうな顔になっている。
多分、本当なら門前払いが関の山だったんだけど、俺が頑張って族長に掛け合った結果、貴重なチャンスを獲得してやったんだぞ……みたいな事を言いたそうな顔だった。
まぁ、確かにブランダーのお陰かも知れないけどさ?
そこまでドヤ顔されてもなぁ……。
なんとも微妙な心境になり、顔でも微妙な顔になっていた私を前にして、ブランダーが続けて私達へと言って来た。
「ただし、この試験に参加出来るのは三名までだ」
「……はい?」
何言ってるのアンタ?
「ほむぅ……けど、ここにいるのは五人です。それだと二人余ってしまうです」
すかさず、みかんが私の抱いた疑問を代弁するかの様にしてブランダーへと聞いて見た。
「そこは安心しろ。三人が試験を突破すれば、五人全員を里に迎い入れる事になっている。もちろんパラスの解放もな?」
「なるほど……ポイントは三人と言う人数制限が欲しいって所にあるんだな?」
存外、良い条件を言って来たブランダーに、ういういが納得加減に言ってみた。
これにブランダーが即座に頷く。
「そう言う事だな……五人の内、誰が行くのかは好きに決めろ。そこはお前らの都合に合わせる」
「分かった。じゃあ、私らの内の誰が行くかは、フラウが起きてから決めておくよ」
ブランダーの言葉に、私は軽く返事をしてみせたのだった。
▲○◎○▲
「ほじゃ~、頑張ってくだしゃ~」
ニコニコ笑顔で手を振っていたのはみかんだ。
あれからフラウが目を覚まし、朝食を取ると言う流れになったのだが、その時に試験へと向かう三人を決めていた。
その結果、試験に挑むのは私とユニクスとフラウと言う……まぁ、考え様によってはいつもの面子になった訳だ。
結果的に残る事になったみかんとういういの二人だが、こっちもこっちで確認したい事があるから出掛けるとの事だ。
どんな意図があっての行動なのかは聞かなかったが……なんとなくその内、嫌でもみかんの口から聞く事になると思えた。
そこらは信頼していたと言うか、今すぐ聞かなくても大丈夫と判断したんだ。
それに、今の私達が考えないと行けない事は、みかん達の今後ではなく、自分達の事だ。
試験内容は知らされていない。
ただ、名前だけは聞いた。
ブロンの試験と言うらしい。
ブロンと言うのは、巨人族の英雄でもある。
もしかしたら、アトラスの試練とは別のダンジョンが、この島にあるのかも知れないな。




