巨人の里・カウル【13】
圧倒的な力量差を見せて、みかんは包囲されていた兵士を蹴り技だけでノックアウトさせてしまう。
「な……なんだ……と?」
結果的に一人だけになってしまった兄貴が、愕然とした顔になってみかんを見た。
ヤツからすれば、予想すら出来なかったに違いない。
他方のコーモランは違った。
「だから言っただろう! ゴグ族とゴグマ族にも、この超強力な魔法が使えるらしい!」
「魔法……だと?」
「そうだっ! この方は元来なら華奢でか弱く、非力な存在ではあるのだが、新時代に生まれている強力な魔法によって想像を絶する剛力を手に入れているのだ!」
唖然とその場に佇む兄貴に、コーモランは激しく力説して見せる。
そんな魔法なんかなくても、本当は同じ結果になるんだけどな。
「……し、信じられん」
「信じるとか信じないとか、そんな必要はあるのか? 実際に見ただろ! 我らの里が誇る屈強な兵士ですら、まるで赤子同然だ! こんな尋常とは言えない魔法が当然の様に使える時代なんだ! 今はっ!」
そんな訳あるか……と、私は思わず言いそうになる。
当然だが、そんな事は言えない。
今の所は、その勘違いをさせておいた方が、コッチにとって好都合であるからだ。
「………」
兄貴は無言になっていた。
何かを考えている……そんな風に見えた。
しばらくして。
「これが、新時代の力なのか……?」
兄貴は誰に言う訳でもなく呟いた。
……?
なんか、地味に意味深長な口ぶりだな。
「良いだろう。族長には私からも掛け合って見よう……絶対の保証は出来ないがな?」
「兄貴っ! 流石、頼れるぜ!」
何処かで納得し、反面で何処かで不信感を募らせている……そんな、妙に複雑で難しい顔になっていた兄貴に、コーモランは素直に喜んでいた。
うむ。
コーモランは普通に良いヤツなんだな。
やたらゴツい顔をしてるが、まるで純真な少年の様な瞳を見せている。
もしかしたら、そう言う性格なのかも知れない。
人は見掛けで判断出来ない良い例だ。
他方の兄貴は……どうも、クセがありそうに見える。
少なくとも、守護霊が……こうぅ……な?
ちょっと、くすんでいる。
まだ、何かを考えているんじゃないか?……そうと、私に思わせてしまう。
相応の危険予知をして置く必要だけはありそうだ。
「……で、です? みかんらは、里に入っても良いのです?」
私が周囲の連中を分析していた所で、みかんがコーモラン達へと尋ねてみせた。
すると、兄貴がみかんへと返答してみせる。
「族長からの許可が降りない限り、里の中に入る事は出来ない……が、特例として我らの別宅に案内してやる。そこは里からやや離れている場所だ。元来なら、そこすら人間が寝泊まりしても良い場所などではないのだが……」
そこで言葉を切った兄貴は、少し思考を張り巡らせる。
「コーモランの言葉も無下には出来ない。それが真実であるのなら、我々はとんでもなく愚かな行為をしている……正否を確かめる為にも、俺はこれから族長と話しをして来よう。ここは、一時保留と言う形を取りたい。そこで、妥協案として里の外れの別宅に案内したいのだが、これで勘弁しては貰えないだろうか?」
「すまない、救済者の皆さん。本当はちゃんと持て成したい所なんだが……ここは兄貴の顔を立ててはくれないだろうか?」
比較的、低姿勢で言って来た兄貴と、その隣にいたコーモランも深々と頭を下げてお願いして来た。
「まぁ、良いんじゃないのか?」
お願いする形で言って来た二人を見て、私は周囲にいたメンバーに賛同を求める感じの声音を吐き出してみた。
現状での妥協案としては、申し分ないレベルだ。
まぁ、その別宅って言う場所がどんな場所なのかは少し怪しむが。
けれど……どの道、都会暮らしが長かった私らからすれば、里にある正式な自宅ですら質素極まりない原始的な家でしかない。
長い間、独自の文化だけで生きて来た鎖国状態の島国だっただけに、現状を見る限りだと異文化を通り越して大昔の原住民だ。
今時、まだあったんだな?……石で出来た家なんて。
煉瓦造りの建物だって、昨今は古くなって来たと言う時代に、まさか石と土壁で出来た家が現役で建っているとは思わなかった。
この調子だと、水道はおろか井戸すら怪しい。
進んだ文明を持つ国家では、もう鉄工業が盛んで汽車すら走っていると言うに……同じ時代に生きているとは思えない程の差があった。
なんにせよ、だ。
「この調子だと、私らは野宿が確定するしな? それよりはマシだろ?」
「そうですねぇ。みかんはキャンプでも全然問題ないですが、建物を貸してくれるのなら、そっちのが良いです」
「私も賛成です。なによりフラウが真っ白なので、なんとかして上げないと」
促す私の言葉に、みかんとユニクスの二人が即座に頷きを返してみせた。




