巨人の里・カウル【11】
「外の世界と、こっちの里との戦力差は歴然です。このまま行けばこの里の滅亡は必死……一刻も早く手を打つ必要があるのですよ」
みかんは気迫のこもった演技をして見せる。
下手な女優より演技力があるな。
実際に危機が迫っているのかも知れないが、相手の戦力なんかみかんが分かる筈もない。
けれど、如何にも圧倒的な戦力があると断言までしていたみかん。
挙げ句、迫真の演技力まで見せているのだから……仮に巨人族の方が有利な戦いであっても、この演技に騙されかねない。
「それは、真実なのか……?」
案の定、コーモランはみかんの言葉を信じてしまった。
存外、お人好しなのかも知れない。
良く見ると守護霊も白いしな。
「真実です。外界の人間……いや、ゴグとゴグマ族の末裔の力は、ずっと鎖国状態にあった里とは違い、高度な魔法まで使います……そうですね? 百聞は一見に如かずと言います。試しに体感してみましょうか?」
そこまで言ったみかんは、自分に補助魔法を掛けて見せた。
超攻撃力上昇魔法レベル99!
超防御力上昇魔法レベル99!
超身体能力上昇魔法レベル99!
……オイオイ。
私は口元をヒクヒクさせた。
そんな魔法……一般的と言う概念をとっくに過ぎてるぞ。
しかし、補助魔法の概念を知らなかったのか? コーモランはハテナ顔になってみかんへと口を開く。
「?……それがどうかしたのか? 特に凄い魔法には見えないのだが?」
補助魔法を知らないのだろうコーモランからすれば、取り敢えず魔法を使っただけにしか見えない。
特に周囲に何か起きた訳でもなく、何かが変わったと言う風でもない。
……まぁ、みかんの能力が大きく変わっているんだけどな?
「これは、みかんの能力を上昇させる魔法です。この魔法の凄い所は、一人の人間が使う事が出来たとすれば、周囲にいる味方の全員が同じ恩恵を受ける魔法なのです」
「なるほど……それで? その能力を上昇する魔法は、如何程の効果があると言うのだ?」
「ほむ。んじゃ、です? そこの木を見て下さい」
言うなり、みかんは近くにあった大きな木を指差し……軽くパンチして見せた。
バキィィッ!
みかんの拳がぶつかった瞬間、木はめきめき……と音を立てて傾き、
ズシャァァァァンッ!
深く張っていた根っこもろとも倒れてしまう。
「……なっ!」
コーモランは目を見張った。
補助魔法を知らなかったんだから、今の光景は驚きに値するのだろう。
まぁ、みかんの場合、補助魔法なんか使わなくても、この程度の芸当は簡単に出来るとは思うんだがな?
しかしながら、今のみかんは華奢な体躯の女の子だ。
その見た目とは裏腹に、超人的な力を『魔法の力で行っている』と言う形にすれば、その魔法の力がどれ位凄い物なのか、誰にでも理解する事が出来るだろう。
「どうです? これが外の世界にある標準的な魔法の力です」
純度100%の嘘を、さも本当の様に言うみかん。
真実を知っている私からすれば空々しい茶番にしか見ないんだが、何も知らないコーモランからすれば衝撃的だった。
「こ……これは、確かに一大事だっ!」
慄然となり、額から冷や汗を流していたコーモランは、これから起こるかもしれない脅威に震えていた。
「そうでしょう? みかんの様な、か弱くて可愛い可憐な少女であっても、これだけの力が生まれる魔法を、普通に使って来るのです。この魔法を屈強な兵士が使えば……もう、答えはそこにあると言っても良いでしょう」
「確かに!……しかし、そうなると……我々に打つ手はあるのだろうか?」
「だから、みかん達が来たのですよ」
戦々恐々とするコーモランを前に、みかんはニッコリと柔らかい笑みを作りながら答えた。
「このまま滅びの道を進むだろう巨人を救う為の打開策をちゃんと用意した上で、みかん達は貴方達を助けに来ているのですよ」
「……そ、そうだったのか」
完全に騙されてる感じだったコーモラン。
まぁ、ちゃんと巨人の里を助けはするのだから、あながち嘘と言う訳でもないだろう。
そこから、コーモランは態度を一転させる。
「……巨人族の掟に縛られている場合ではないと言う事は良く分かりました。パラスのヤツは心からこの里を考えていた事もです。……遠路遙々、ご足労頂き、感謝致します」
口調も敬語になり、態度も礼儀正しい物へと変わった。




