巨人の里・カウル【10】
「久しいな、コーモラン。兄貴は元気にしてるか?」
「なっ! どうして俺の名前を……っ!」
武骨な男に、パラスはかなり友好的な声音を吐き出して近付いて行く。
そして、コーモランと呼ばれた、武骨な男はパラスを見るなり愕然となった。
「お前……パラスなの……か?」
信じられないと言うばかりの顔になって尋ねて来た。
そんなコーモランに、パラスは穏和に語った。
「俺以外の何に見えるんだ? コーモラン? 久々にここへ戻って来たのさ」
「そ、そうか! それは嬉しい知らせだ……が」
コーモランは、そこで厳めしい顔になって私達を指差した。
「コイツらは何だ! どうも見ても人間だろう! お前はこの里の禁を知らないのか?」
「知らない訳がないだろう?……が、今は禁を破る必要があると思っている……いや、違うな」
そこで、パラスは神妙な顔付きになって言った。
「時代は、巨人と人間……いや、世界の全てと協栄・共存をする時代になっているんだ」
「………」
コーモランは無言。
絶句と言う方が正しいのだろうか?
しばらく、二人の間に重々しい沈黙が続いた。
「どうなっても、俺は知らんぞ?」
沈黙を破ったのはコーモランだった。
彼は冷ややかな眼差してパラスを見た。
先程まであった旧友を見ていた暖かな眼差しは、既に消失していた。
どうなっても……とか、穏やかさの片鱗もない台詞なんだが?
てか、今日はもう疲れたから、せめて寝る場所とか欲しいんだが?
あ、それと地酒を少々……。
そんな事を私が考えていた頃、
「お前らは、ここで少し待っててくれないか?」
「……はぇ?」
私の目がテンになった。
見れば、周囲のメンバーも少し驚いたらしく、地味にポカンとなっている。
フラウに至っては、完全に目が死んでいた。
「恐らく、コーモランが里に人間を入れる事を許さないだろう……まぁ、張り倒して入っても構わないが、そうなったら里の連中と全面的に戦う羽目になる。それだけは避けたいんだ」
……そうだな。
パラスはごもっともな台詞を私達に述べて見せる。
ここで、コイツをぶん殴るのは簡単だけど、そうなったら穏やかな話にはならないだろう。
私らは巨人の里に喧嘩を売りに来た訳ではない。
むしろ、助けに来たんだからな。
……思い、私はパラスの提案を素直に聴く事にした。
「みんなもそれで良いか?」
それとなく私は周囲に促すと、
「そうですねぇ~。それが一番ベストかもです」
「私もみかんと一緒だ」
みかんとういういの二人が即座に賛成の声を上げ、
「もちろん、リダ様の意向に従いますよ」
ユニクスが心良い返事をしてにこやかに微笑み、
「………」
フラウが真っ白になっていた。
「……って、フラウ! 大丈夫かっ!」
「……燃え尽きたよ」
待て! その台詞はちょっとヤバいだろ!
「と、ともかく……俺はちょっと行って来る。なるべく早く帰って来るから……その、フラウ。ごめんな」
答えたパラスは足早に里の中へと入って行った。
良くわからないけど、早く帰って来いよ? 本気でフラウがヤバい。
「……パラス様が私にごめんなって」
……ん?
……んん?
何か、さっきの言葉でフラウの目がキラキラし始めた。
ついでに、精神力が復活してた。
…………。
意外と元気そうだな。
やたら瞳を輝かせるフラウを見て、私の目が半眼になる。
心配して損した。
取り敢えず、私の心配を返せと地味に心の中でぼやいていた時、近くで私達を見張っているのだろうコーモランが声を掛けて来る。
「お前達は、何の目的で我らの里までやって来たと言うのだ?」
「そりゃ、もちろん! おたか……」
バキィッ!
コーモランの質問に、ういういが意気揚々と答え様とした所で、みかんが思い切り殴っていた。
中々過激な事をするヤツだ。
まぁ、私もういういの口を塞ごうとは思ったけどな?
「ふぎゃっ!」
後頭部を痛打したういういは、その一撃でお花畑の住人になってしまう。
そのままバッタリと倒れるういういを尻目に、みかんは穏やかな声音でコーモランへと口を開く。
「貴方達を助ける為に呼ばれたんですよ~」
そして、さも当然の様に嘘を並べる。
お前らの主目的は、ういういが断言しようとしてた事だろ?
……そんな事を頭の中でぼやいてたが、当然口にする事は出来ない。
現状で、お宝を探しに来たなんぞ、冗談でも言った日にはそれだけで戦闘になりかねない。
「助ける?……すると、お前らがパラスと一緒に来ているのは、里の危機を助ける為だと言うのか?」
「そうですねぇ。こうしてる間にも、きっと大陸の方にいる元・巨人族の方々は、この島を虎視眈々と狙ってるに違いないのです」
疑念に眉を歪ませていたコーモランに、みかんは如何にも本気で言ってるかの様な真剣さで答えていた。
コイツ……詐欺師の才能があるんじゃないだろうか?
けど、みかんもこの危機を助けたいと言う気持ちは確かにあるのだろう。
そう考えれば、決して嘘を口にしていると言う訳ではないのかも知れない。
……秘宝は狙ってるんだろうけどな!




