前々世【17】
……全く、何なのだろうな? この人は?
私の中では、謎が謎を呼び……もはや謎でしか、ラーさんを語る事が出来ない心境に陥ってしまったぞ。
私の正体を最初から言い当てている時点で只者ではないし。
キート国の王族に値するのだろうアラビカの護衛をしながらも、先生役をしている時点で、これまた普通の人間ではない。
……かと思えば、今度はしれっとふざけた事をして来る始末。
一体、彼女は真面目なのか不真面目なのか……私には全く検討が付かなかった。
ともかく、一つだけ確実に言える事は、だな?
「別に金は要らない……てか、100マール貰っても買える物なんてほとんどないから、余計に要らない」
むしろ100マールで買収されたとあったら、私の沽券に関わる!
別に高いプライドを持っている訳ではないが……だからと言って、そこまで安い訳でもない!
少なからず、100マールよりは高いからなっ⁉︎
「そうですか……分かりました。それでは100マールは返させて頂きます。これで済めば安い物だと思ったんですがね……残念です」
ラーさんはかなり困った顔になって言う。
だから、どうして100マールで済む話しだと思ったんだ?
確かに、100マールで済めば安い物だろう。
まぁ、普通に考えて、それで終わる話しとは思えないけどな!
そして、残念とか言っているけど……残念なのはラーさんの話しその物だからな? いやマジで!
「……私としては、これ以上余計なちょっかいを掛けて来ないのであれば、別に何もしなくても構わないよ……」
「これからの事、ですか」
正直、早く帰らせてくれませんかねぇ?……って感じの台詞を口から言い出してやろうか本気で考えていた頃、ラーさんは比較的真剣な顔になって声を返して来た。
急に改まった顔になったな?
もしかして、真剣な顔をしてボケた台詞を言う……って路線のギャグを言うつもりなのだろうか?
「そうですね。そこは存分に考える必要があります。あなたは既にリンネルさんから『色々と聞いて』いるみたいですからね」
……おっと!
普通に真面目な話しをして来たぞ!
ちょっと意外だった……と、心の中で思ったのは、言わないで置こう。
冷静に考えるのであれば、ラーさんは色々な事を知っている。
厳密には『そう見える』のだ。
彼女がどの程度まで知っているのかは、私にも分かっていない。
当然と言えば当然だ。
今、この場で初めて顔を合わせた相手なのだからな? 私が知る筈もない事柄だ。
その反面、私の素性を既に知っていたり、キートの王族関連の関係者と言う点を加味するのなら、多少は物事を知っていてもおかしくはない。
可能性からするのであれば、私よりも色々と詳しい事を知っているだろう。
リンネル君から軽く聞き齧った程度の私より、色々と多角面に物を知っているに違いない。
「あなたの前々世の話しは聞いておりますよね?……あなたの前々世は邪神でした」
「どうやら、その様だな?」
正直、未だ信じられないがな?
けれど、メチャクチャで無理無体な与太話も……実際問題、真実であるからこそ、この様な事態へと発展しているのだろう。
静かに生活をさせてはくれない物なのだろうか?
「この部分は重要です。あなたは極めて強い……この世界など指一つで消滅させてしまえるだけの甚大な力を持った、極めて凶悪な邪神だったのです」
………。
それは、話し半分に聞くと言う事で良いかな?
幾らなんでも、少しばかり話しを盛っているとしか思えない。
指一つで世界を消滅?
そんなアホみたいなヤツが、この世にいる物なのか?
余りに突飛でもない台詞を言うラーさんに、どんな返答をして良いかで困惑する私がいる中……彼女の言葉が続いた。
「研究所の研究結果によりますと……あなたは百億年程度の時間を生きた、とてつもない能力を持った脅威的な『何か』であったとされます。もはや次元が違い過ぎて、人間が想像する事も出来ない程の強大なパワーを持っておりました……残念な事に、消滅してしまうのですが」
「……消滅?」
ラーさんの言葉に、私はちょっと意外そうな顔になって声を返す。
言われてみれば、私の『前々世』と言う事は、何らかの理由から死んだ事になっている筈だ。
生きていたのなら、輪廻転生をする筈もなく……そのまま、現世の世界に生きたまま留まっている筈だからだ。
……しかし、それにしても百億年?
桁がおかしい過ぎるだろ?
もはや、天地神明がどうと言うレベルより、宇宙開闢のレベルだぞ。
……ん? 待てよ? 宇宙?
………。
……まさか、な?




