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前々世【16】

 ……それと言うのも、だ?


 アラビカのフルネームは『アラビカ・サンテ・キート』と言う名前だからだ。


 前々にも述べているので知っている方は既に知っているだろうが、この世界の場合、サード・ネームまで名前がある場合は最低でも貴族以上と言う事になる。


 そして名前の三番目を意味する物は、その人物の持っている家柄や地位を意味する事が多いのだ。


 その上で行くと、三番目の『キート』は、かなり重要な名前となる。

 キートは西側諸国にある先進国の一つ。


 つまるに、キートを代表する者の名前……王族と言う事になる訳だ。


 確かにアラビカは、自分が王族である事を否定はしなかった。

 ……だが、王族と言っても名ばかりで、さして高い地位を持った王族ではないと言っていた。


 どうやら、私に対して自分の身分を言いたくはなかったらしい。

 しれっと嘘を吐いていたのだろう。

 少なからず、ラーさんの口振りからしてそうなる。


 果たして。


「もう、察しはついたでしょうが……こんな甘ったれた精神の持ち主こそが、キート皇室の継承権を持つ皇女の一人でもあるのですよ……最初は、テキトーに指導するだけで、手取りの月給が100万マールになると聞いていた物ですから、喜んでアラビカ様の指南役と護衛役を買って出たのですが……いざやって見れば、私の言った事は一切守らない、練習は逃げる、勉強もしない……一人前なのは口だけと言う、とてつもないモンスターでありましてねぇ……はぁ……」


 ラーさんは、心の底からやって来るだろう溜息を重々しく吐きながらもぼやき節を口にしていた。

 これまた、気持ちが何となく分かる気がするから困る話しだ。

 きっと、ラーさんもアラビカには相当手を焼いているのだろう。


「本人を前にして、良くそこまでの事が言えるな! 私は私で自分のペースでしっかり頑張っているじゃないか! そう言う所をちゃんと伝えなさいよ!」


「ああ、はいはい……そうですね。頑張っている時もありますね? 一年に一回程度はしっかりと頑張る時があるのでしょうね? 私はその姿を一回も拝見した事はありませんがね?」


 きっと図星だったせいか? 顔を真っ赤にして叫ぶアラビカに、ラーさんは冷ややかな顔をして、気のない返事をしてみせる。


 何ともビミョーな会話だった。


「それより、アラビカ様? リダ会長に粗相を働いておりませんでしたか? さっきも申しました通り、リダ会長に楯突いたのなら……決して無事では済みませんよ? キート皇室の人間だからと言って、冒険者協会に喧嘩を売るのは得策ではございません……いえ、むしろ、とんでもない仕打ちを受ける可能性すらあります」


「え? そ、そこは……そのぅ……」


 ビミョーな会話が地味に続いた所で、かなり厳しい顔になって答えたラーさんの言葉に、アラビカは思わず口籠ってしまった。


 まぁ、私に対して見せたアラビカの態度は『粗相』なんて言うレベルではなかったからな?

 完全無欠の虫けら以下な扱いだ。

 普段は大人しい、仏のリダさんと呼ばれている私であっても、怒るなと言う方が無理なレベルだったぞ!


「今からでも遅くありません!……いや、遅いでしょうけど! もう、アウトなレベルまで到達しているかも知れませんけど! それでも、まずは謝りましょう? 今後のキートを存続させて行く為にも、冒険者協会に喧嘩を売る様な真似だけは絶対にしては行けませんから!」


「……う、うぅぅぅ……」


 厳しく叱咤するかの様な口振りで叫ぶラーさんに……しかし、それでも頭を下げたくないアラビカが唸り声を上げていた。

 何処まで私に頭を下げたくないんだ? この腐れ女は?


「……はぁ。仕方ありませんね? じゃあ、私がお手本を見せてあげます」


 いつまで経っても唸り声から先に進まないアラビカを見兼ねたラーさんは、困った顔のまま私の前へとやって来ると、


「先程は、本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁっっ!」


 思い切り勢い良く土下座して来た。


 なんて土下座の仕方だっ!

 もはや、プライドの欠片すら感じられない土下座の仕方と言える。


「いや、そこまでしてくれなくても構わないから……」


 私は思い切り顔を引き攣らせながら言うと、


「いいえ! こう言う事はとっても大切な事です! そう! 人と人との対話や礼儀と言うのは特に!」


 素早く『くわわっ!』っと、気合いを入れて叫ぶラーさん。


 そこから、まもなく……


「これは、ほんの賄賂です。つまらない物ではございますが」


 ……とか言って、私にお金を……って、コラッ!

 普通にしれっと『賄賂』とか言って、金を掴ませようとするんじゃないよ!

 しかも、礼儀とかほざいて置いて、賄賂を渡そうとするなよ


 果たして、私の右手へと手渡した物は……100マール銀貨であった。


 ……って! 100マールかよっ⁉︎

 いや、馬鹿なの? どんだけ安いの? 私っ⁉︎


 もはや、ツッコミ所が多過ぎて、草しか生えないシチュエーションが続いた。 

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