前々世【14】
「……言いたい事はそれだけか?……なら、そろそろ、帰らせて貰う」
途中で言葉を止め、絶句状態になっていたアラビカを前に声を吐き出した私は、その場からゆっくりと歩き始めた。
そこからしばらく放心状態になっていたアラビカであったのだが、
「待てよ! 逃げるのかっ⁉︎」
私が自分の眼前から立ち去ろうとした事に気付いたアラビカは、ハッ! っとした顔になって、私へと悪態を吐いて来た。
逃げるも何もあるかよ。
「お前じゃ役不足だ。ハッキリ言う。私に挑むには、あと百万年はちゃんと修行を積まないと行けないな?」
悪びれる風もなく、嘯きつつ……私は再び歩き始めた。
返事は、言葉ではなく右手のナイフでやって来た。
シュッ!
……と、風を切る形でやって来たナイフは……私の眼前で止まった。
「……はぁっ⁉︎」
アラビカは愕然となる。
きっと、彼女からすれば摩訶不思議現象にさえ見えたのだろう。
透明なバリアによって阻まれたナイフは、一見すると私の眼前でピタッ! っと止まった様にしか見えないのだから。
戦闘が始まると同時に発動される自動技術の一種である為、決して私の意思で発動した訳ではないのだが……最近は、めっきり出番が減っていた。
私の周囲に居る面々の実力だと、簡単に貫通してしまうからな?
フラウの炎神槍とかであれば、秒を必要とせずに無色透明のバリアを粉砕してしまうだろう。
もちろん、私は魔導防壁を意図的に発動させるがな?
極論から言おう。
アラビカの攻撃など、いちいちガード体勢を取るまでもない、と言う事だ!
「まだ分からないのか? 私とお前とでは、実力が違い過ぎるんだよ? いい加減気付いて欲しい所なんだが?」
そうと答えた私は重々しいため息をわざと大仰に吐き出してみせる。
アラビカの顔が見る間に真っ赤になって行った。
怒りで顔が凄い事になっているなぁ……一応、顔は良いんだから、そこはもう少しマシな顔をして欲しい所なんだが?
「モルモットの癖に! 人間様を舐めるなぁっっっ!」
まだ言うか、このクズ女。
……仕方ない。
いい加減、このクソ女郎を相手にしているのも疲れたからな?
早々に痛い目を見て貰おうか?
怒り狂ったアラビカが、透明な防壁目掛けて何回もナイフを振るう中、私はすぅ……っと右手をアラビカに向けた。
「……っ⁉︎」
直後、アラビカは攻撃を止め、自分へと向けられた右手を見て蒼白になる。
同時に気付いたのだろう。
自分が如何に無謀な事をしているかを。
いつ、私が攻撃をしないと言った?
いつ、私が大人しくしていると言った?
一方的に攻撃をされているだけのまま思うと、どうして思った?
「バイバイ、馬鹿女。精々、病院でうんうんと魘される事だ」
ドォォォォォンッッッ!
軽く火力を調整しながらも爆破魔法を発動させる。
余談だが、私が発動した魔法は、爆破系下位の魔法……爆破魔法だ。
普通の魔導師が発動すれば、爆竹よりは威力がある……かなぁ? 程度の爆発しか発生しないが、私レベルになるとプラスチック爆弾程度の威力は軽く出てしまう。
……よって、更に魔力を抑えると言う、究極の手心まで加えてやった。
割りと感謝して欲しい所だぞ? ユニクスが相手であるのなら、こんな微風にも匹敵する可愛い爆発なんてしないのだから。
しかしながら、常人が直撃を受ければ入院は必死だろう。
……ま、そこは私も治療魔法を軽く施すつもりであったし?
取り敢えず、私の反撃は怖い物だと言う事を学習してくれれば、それで構わないと思っていた。
……が、しかし。
「……誰だ、お前は?」
私は言う。
咄嗟にアラビカを庇う形で乱入して来た、黒髪の美女に対して。
やたら艶やかな体躯をした、髪の長い美女だった。
秀麗かつ雅やかな気品と言う物を兼ね備えた彼女は、私の爆破魔法とほぼ同時にアラビカの前へと現れては、超高速で魔導防壁を張っていた。
結果、私の爆破魔法を完全にシャットダウンさせる事に成功していたのだった。
「ラー・ジャグと言います。以後、お見知りおきを」
華やかな顔立ちをみせる黒髪の美女……ラーは、少々慇懃なのでは? と言いたくなるまでに深々と頭を下げて来た。
……?
どう言う風の吹き回しなのだろうか?
見た所、アラビカの知人関連である事だけは分かる。
そうじゃないのなら、咄嗟にやって来ては、アラビカを庇う様な真似はしないだろう。
反面、アラビカの知人と言う事は、西側サイドの人間である可能性が滅法高い。
むしろ確定と述べても過言ではないだろう。
よって、アラビカと同じく、私を不条理なまでにモルモット扱いをして来ても、何らおかしな話しではなかったのだが……どう言う訳か? アラビカとは真逆の態度を私にみせて来た。
これはどう言う事なんだろうな?




