前々世【13】
つまるに、見た目に反した馬鹿力があると言えば、決して間違いではなかった。
面倒臭いとか言う理由で、トレーニングの類いを全くやっていない割りには、かなり高い力を誇っていると評価する事が出来るだろう。
しかし、それだけだ。
他は全くのからっきし。
動きは勿論、スピードもない。
これまた抽象的に言うのであれば、冒険者レベル1……って所だろうか?
まぁ、腕力がレベル1よりは高いかな? 程度ではあるんだけど、ステータス的に見てもレベル1の冒険者と表現した方がよりしっくり来るレベルだな?
その程度の腕前で、この会長様を相手にするなど、百万年は早い!
言うなれば、レベル1の状態で魔王へと戦いを挑む様な物だ!
………。
いや、私は魔王ではないから、この例えはちょっと不適切だったかも知れないな?
うむ、そうだな? じゃあ、どう表現するのが正しいかな?
やっぱり美貌に溢れた女子力の高い女と、陰キャ・オタクで頭にキノコでも生えてそうな女程度の差がある……って事にして置こうか!
これなら、しっくり来るな!
だって、私は女子力と美貌をふんだんに持っている乙女だし!
……さて。
無駄な自画自賛はここまでにして。
私はアラビカの右手を握り締めたまま、離さないで置く。
……ま、アラビカが自力で離せるとは思わないが、取り敢えずどんな動きをするのか観察していた。
「良い加減離せよ! クソモルモット! お前の小汚い手で触っても良い物じゃないんだよ! 分かってんのかっ⁉︎」
……汚いのはお前の口だろうが。
マジでムカつく女だなぁ……オイ。
少しばかり和解して、一緒に喫茶店とかに行ったと言うのに、その内心は単なる試験動物と言う目でしか見てなかったと言う事か。
思えば、私がトイレに行く時、アラビカのヤツは『気をつけてね?』って感じの台詞を言っていた。
単にトイレへと行くだけだと言うのに、どうして気を付ける必要があるのだろう……と、その時の私は思っていたのだが、蓋を開ければ実に単純な物だった。
最初からアラビカは、私がガードレールに襲われる事を知っていたからだ。
私が単身になる所を狙って仕掛けて来る事実を知っていたからこそ、軽やかに『気を付けてね』と言えたのだろう。
結局はグルだったと言う事だ。
はぁ……本当に胸糞の悪い話しだ。
リンネル君の話しを聞く限りだと、私の事をモルモットと見下しているのは、彼の兄と弟の二人だけと言っていたのになぁ……。
結局、リンネル君の前でのみ、しっかりと猫でも被っていたのかも知れない。
同時に、リンネル君はお人好しで素直な人間なのだろうなぁ……と、予測する。
結局の所、余り人を疑うと言う性質を持っていない為、相手が取った行動を額面通り素直に受け取ってしまう。
その結果……アラビカの様に、強烈な二面性を持つ女の本性を見抜く事が出来なかったのだろう。
うむぅ……やはり、リンネル君は良いヤツなのかも知れん。
……と、また話しが脱線してしまったな?
なんと言うか、やたら余裕があると言うか、勝負にもならないまでの実力差がある物だから、つい余計な事を考えてしまうのだ。
私の右手から脱出する為、必死で腕を振り解こうと足掻くアラビカであったが、私の右手は小指一本動いてない。
ハッキリ言って、コイツの腕力を百倍にしても、私の右手を一ミリ動かす事が出来たのなら敢闘賞であろう。
それだけの力量差が存在していたからだ。
「ふんぬぅぅぅぅっっ!」
最終的に顔を真っ赤にして踏ん張る様な格好をしながらも、私の右腕から自分の右手を引き抜こうとするアラビカがいた所で、その手をパッ! っと話してやった。
「……っ! えっ⁉︎」
瞬時に手を離されたアラビカは、勢い良く離された事で後方へと盛大に尻餅を付いてみせる。
ふ……無様だな。
「はぁはぁ……やっと抜けた……ふふ、ここからが本番だぞモルモット! 今すぐ斬り殺してやるから、掛かって来い!」
まだやる気なのか? お前?
相手の実力を知るのも、戦闘の上では大事なファクターだぞ?
「馬鹿言うな。今のお前と私との実力差は歴然だろ?……何より私は白けた。そろそろ帰って良いか?」
「はぁ? 馬鹿なのお前? それとも言葉が通じないのか? ちゃんと私の言っている意味が分かる⁉︎ モルモットの知能でも分かる様に言ってやってる……」
そこまで答えた時、アラビカの言葉が止まった。
私の表情が変わったからだ。
正確に言うのなら、思い切り睨み付けてやった。
本当は、その場で爆破してやっても構わなかったけど、コイツを相手に私の魔法なんぞ使った日には、マジで即死するかも知れないからな?
仕方ないから、睨むだけにしておいてやる。
感謝しろよ? クソ女っ!




