前々世【12】
「はんっ! そんな大嘘を、この私が信用すると? 飛んだ笑い話しだね! これだからモルモットは困るよ!」
しかしながら、アラビカは私の言葉なんぞ、全く耳を傾ける気もなさそうであった。
どうでも良いが?
「さっきから、人をモルモット、モルモット……って、マジで喧嘩を売っている様にしか思えないんだが?」
「……何? 気付かなかったの? これ以上、私の恋路を邪魔するお前を放って置けなくなったから、直接手を下してやると言っているんだよ?」
……ほほ〜?
なるほど、やっぱりそう言う理由か?
全く、西の人間ってのはしびれを切らすのが早いな?
序でに言うと、血気盛ん過ぎるだろ?
だが、私も同意見だ!
「よし、分かった。丁度な? 私もストレスが色々と溜まっててな? 暴れてやりたい気持ちで一杯だったんだ? 一つ、私の相手でもして貰おうじゃないか?」
売り言葉に買い言葉。
私は完全にアラビカへと挑発を促すかの様な笑みを濃厚に浮かべ、軽く右手を外に向けた。
つまるに『表に出ろ!』と言いたい。
「奇遇だねぇ? 私も同じ気持ちだ。人間とモルモットの差を存分に見せてやろうじゃないか!」
喧嘩を売っている以外の何物でもない私に、アラビカもアッサリと頷いて行く。
よし! 良く言った!
こっちもこっちで、かなりストレスが溜まっていたんだ!
愛娘が攫われた挙句、人を試験動物扱いされて、頭ごなしに見下して! マジでイライラがマックスなのだがっ⁉︎
膨れに膨れ上がったフラストレーションをぶつけてやる!
ちょっと八つ当たりになるかも知れないが……私だって人間だ! 思い切り泣かしてやるから覚悟しとけよ? こんチキショウ!
こうして、私とアラビカの二人は学園寮の外へと向かった。
◯◯●●●
学園寮から数分程度の所にある校庭。
……まぁ、ここは特段捻りがある訳でもないな?
普通に校庭だ。
学園の敷地内なのだからして、校庭ぐらいは普通にある。
基本的に、我が学園では部活動の類いは存在していないのだが、剣士を目指す者が放課後に自主練をする者などは多数いる為、授業が終わったばかりであるのなら、結構な数の生徒が自分なりの目標に合わせた修練を積んでいたりもするな?
ナイター設備等もある為、熱心な生徒は日没が過ぎても練習に励む者も居たりするのだが、今日は既に全員が引き上げている様子だ。
うむ! とっても都合が良くて結構!
これで、心置きなく暴れる事が出来るな!
校庭の中央までやって来た私とアラビカは、間もなく戦闘を開始する。
……やれやれ、血気盛んな事だ。
最初から決めていた訳でもなかったからか? それとも、単に不意を突いてやろうと言うセコイ魂胆から来ているのか? アラビカは無言のまま私へと襲い掛かる形で攻撃を展開して来た。
ガッ!
なんの予告もなく、突発的に右手へと短剣を握り、一切の躊躇なく私へと振り抜いて来た所を、素早く反応する形でアラビカの右腕を掴んだ。
「……それで終わりか?」
私は、ニッと笑みのまま答える。
ハッキリ言って拍子抜けだ。
実力云々のレベルではない。
動きも能力も、完全に素人レベルだ。
ウチの学園の生徒だって、もっとマシな動きをするのではないのだろうか?
「のぼせ上がらない事だモルモット! 余裕ぶっていられるのも今の内だけだ!」
右手を握られていると言うのに、威勢だけは一人前だったアラビカは、大仰なばかりに悪態を吐いて来た。
……ふむ、なるほど。
この時点で私は気付いた。
……気付いてしまった。
これ、かなり面倒臭いヤツ!
何処が面倒だって?……これ、自分が物凄い実力があると勘違いしているパターン!
一体、何処をどの様に考えたらそうなるのか? 割りと本気で思うぞ!
「一つ聞きたんだが?」
「……何?」
「アラビカは、戦闘関連の訓練とか修練とか……まぁ、取り敢えずその手の類をやった事があるか?」
「そんな物、ある訳ないでしょう? 面倒臭いし!」
………。
言い切ったよ。
ただ、これで分かった事がある。
アラビカは普通の一般的な人間だ。
強いて言うのなら、少しだけ力が強い程度だろうか?
私に右手を握られた事で、アラビカなりに抵抗をしているのは分かるし……強引に力で引き剥がそうとしているのも分かった。
その時に感じる腕力は、一般的な男子の腕力よりも少し上回る程度の力はあった。
抽象的に分かり易く言うと、ベンチ・ブレスで100キロぐらいなら余裕で持ち上げられる程度だろうか?
ジムに通って、身体を鍛えているヤツであるのなら、何人かは普通に出来るレベルだろう。




