前々世【11】
そして、学園寮へと戻り、私の部屋へと帰って来た……その時だった。
「思ったよりも元気そうだな? リダさんよ?」
私の個室がある入り口ドアの前にて仁王立ちするアラビカの姿が。
……?
「どうした、アラビカ? 何か私に用か?」
私は頭の上にハテナを浮かべた状態で尋ねた。
フラウと一緒に喫茶店へと残した状態のまま別れてしまったのだが……その間に、アラビカと何か約束でもしたかな?
喫茶店で雑談していた時の事を軽く思い返しながら、アラビカなりにやって来たのだろう用事を考える……うむ、そんな物はないな!
少なからず、私の記憶にはない。
もしかしたら、忘れているだけか?
……ま、今日は色々な事があり過ぎたからな?
「もしかして、何か約束とかしてたっけ?」
「そんな事をした覚えはないね?」
それとなく尋ねると、アラビカはソッコーで否定して来た……うん、そうだよなぁ?
私もアラビカと何らかの約束を取り交わした記憶がない。
取り敢えず、私が記憶違いをしている可能性は無くなった。
……すると、だな?
「じゃあ、どうして私の部屋の前にいるんだ? 私に何か用事でも出来たのか?」
結局の所、アラビカの行動は謎……と言う結論に至る。
用事もないけど、なんでか私の部屋の前に立って、私の帰りを待っていたと言う事になるのだから。
「そうだなぁ……きっと、この言葉で足りると思っているよ?」
不思議そうな顔のまま尋ねた私の問い掛けに、温和な口調で声を返したアラビカであったが……この言葉を言い終わった後、急に表情を厳しい物へと豹変させ……。
「モルモット如きに話しをする口なんて持ってない」
……ああ、そう来たのかよ? と、思わず嘆息したくなる様な台詞を口にして来た。
つまるに、やっぱりアラビカも研究所サイドの人間だと言う事だ。
冷静に考えたら、そうなってもおかしな話しではなかったんだよなぁ……だって、アラビカも交換留学生だし。
「……じゃあ、私と会話をするつもりなんてない……で、良いのか?」
「そう言う事。今の今まで『友達ごっこ』をしてやっただけ、マシだと思ってくれない? 本当なら、同じ立場の人間として一緒に会話をしている時点でおこがましい、奴隷以下の分際でさ? 良くも軽やかに口をきいてくれた物だと、何回も思っていたんだよ? こっちはね?」
うぁ……。
マジで人を見下す能力が別格級に酷いのですが?
もはや、私を人間として扱うつもりもないのだろうアラビカは、その馬脚を表すかの様な勢いで、醜悪な殺気を私へとぶつけて来た。
これがアラビカの本性かよ。
……くそ。
結構良い奴だと思っていたのに。
「その顔を、フラウにも見せたか?……出来れば、フラウ達にはフレンドリーなままのアラビカさんで居て欲しいんだが?」
「ふん! フラウは私の親友だと思っているよ?……フレンドリーに接するのは当然でしょう? 普通にトウキの人間をしているのだから」
……私も極々普通のトウキ人なのですが?
どうやら、アラビカの中では私だけ奴隷以下のモルモットと言う事になっているらしい。
一体、どんな説明を受けると、その様な曲解をする羽目になると言うのか?
ビミョーに呆れる私がいた頃……アラビカは怒りを滲ませる眼光を、私へと一点集中する形で飛ばしながら、
「モルモットの分際で『私のリンネル君』をどうするつもりだった? 昨日はサービエ君に色目を使ったと思えば……本当に節操のないモルモットだな⁉︎」
私の目がテンになってしまう様な台詞を臆面もなく叫んでいた。
……いや、待て?
「なぁ、アラビカ? お前……トイレで会った時は『私のサービエ君』とかって、言ってなかったか?」
私は目をテンにしたまま尋ねると、
「サービエ君はもちろん、リンネル君も私のだからに決まってるじゃないの!」
もはやドン引きしたくなる様な台詞を、さも当然と言わんばかりの口調で断言するアラビカ。
まさかそう来るとは思わなかった。
「サービエ君とリンネル君……この二人が、私を取り合う恋の三角関係を熾烈に行う事は、大昔の頃から決まっていたんだ! この私がそうと決めていたんだから!」
……勝手に決めるんじゃないよ。
私は地味にげんなりしていた。
要は、自分の中で生まれた願望と言うか……妄想と述べても過言ではない物を、すっかり現実視しているのだろう。
………。
ヤベー奴も居る物だなぁ……。
「一応、言って置く。私はサービエにもリンネル君にも色目は使ってない……なんなら、サービエに至っては、こっちから願い下げだ」
私は、今の自分が持っている素直な気持ちをありのまま話した。




