巨人の里・カウル【4】
そんな、心身共に真っ白になっていたフラウを尻目に、パラスは私へと視線を向けた。
「こんな事をお前に頼むはオカド違いではあるとは思うんだ……が、仮に発生してしまったのなら、この抗争を鎮火出来るだけの抑制力がどうしても欲しかった」
「それで、私の力が必要だった……と?」
「そう言う事だ」
そこまで言ったパラスは、深々と頭を下げて来た。
「頼む……今回は、俺に力を貸してはくれないか?」
……やれやれ。
「頭を上げな……私はコーリヤマの地酒にも興味があるが、他の地方の地酒にも興味がある」
「……? それがどうしたと言うんだ?」
何だよ? これで気付かないのか? 鈍いヤツめ。
「つまり、だ? お前の所にもあるんだろう? 旨い地酒が」
私は高揚を隠せず、思わず頬を緩ませて尋ねた。
コーリヤマの地酒も、勿論良いのだが……巨人の里にあるかも知れない地酒とか、もう未開のダンジョン位にワクワクしてしまうではないかっ!
「まぁ、ある事はあるが……」
「よし、決まりだ!」
ちょっと、話のベクトルが違う的な顔になりつつも肯定の文句を口にするパラスがいた所で即決して見せた。
良い……良いねぇっ!
巨人の酒か……どんな味がするんだろう?
「あ、私も行きます!」
そこから、甲子園の土を拾い終わった感じの顔になっていたフラウが、泣きべそを拭いつつも声を張り上げていた。
「別に来るなとは言わないが……里帰りするのなら、無理はしなくても良いぞ?」
「大丈夫です! 里帰りはいつでも出来ますが、一年の春休みは今しかないのです! 私の恋はこれから花開くのです!」
多分、それは無理だと思うぞ?
そう思いつつ、私は気合い全開のフラウを軽く見流していた。
……程なくして。
「リ、リダ様! わ、私も行きます! 里帰りはいつでも出来ますが、リダ様の子供を作るチャンスもやっぱりいつでもある様な私である為に、カウルへ旅立ちます!」
いつの間にか復活していたユニクスも私達と一緒に巨人の里へ行く宣言をしていた。
「取り敢えず、空の彼方に旅立てっ!」
ドォォォォォォォォォォォォンッ!
「またですかぁぁぁぁっ!」
そして、空の星になって行くのだった。
本当……なにしに来てるんだ、アイツは?
「一つ思ったんだけど? リダってユニクス姉の何処が嫌いなの?」
出現して一分経たずにまたも吹き飛んで行ったユニクスを軽く見ながら、フラウは不思議そうな顔になって私へと尋ねて来た。
あのーもしもし?
「何処も何も、私は女に愛を語られてる時点で問題外だと言いたいっ!」
「そこだよね? ユニクス姉ってユニクス兄にもなるじゃない? しかもかなりの美形」
よって、同性愛ではないと言いたいのだろう。
フラウ的には、だ。
けれど、私は声を大にして主張したい!
ずっと女として友人感覚でいたヤツが、いきなり男になったからと言って、そのまま恋人になれるかっ!
抽象的に考えて貰いたい。
この物語を読んでる人が男だった場合は、性別を逆にしてくれ。
つまり、こうだ。
昨日まで普通に男してた友達が、ある日を境に突然女になって……挙げ句、告白されてしまう。
これ、嬉しいか?
身近な友人を女性化してくれて結構だ。
そして、想像して欲しい。
そいつと付き合えるか?
私は無理だ!
幾ら美形って言っても、元がアレなんだ!
もう、女だとしか思えないんだよ、あたしゃ!
「じゃあ、フラウに聞くけど? お前……ユニクスに男で迫られたら、どうする?」
「えぇぇ……そんな、気持ち悪いのは嫌だなぁ……」
「お前だって嫌なんじゃないかっ!」
私は思いきり喚き散らした!
「あ、ああ~。えぇと……も、もしかしたら、少し位はキュンと来るかもー?」
いや、遅いからね? 言うのが!
しかも、大根役者も真っ青な棒読みな言い方してるからな?
感情の『か』もない言い方してるからなっ!
「ともかく……さ? 私としては、幼馴染みだし……少しは恋のお手伝いをしたいかなって」
「本音は?」
「私のパラス様と良い関係になりそうだから、少しでも遠ざけたい!」
ああ、そうかい。
……てか、いっそ、まだパラスの方がマシだぞ。
「安心しとけ、私はパラスとそう言う関係になる気はない。パラスも同じだぞ? な?」
「……そ、そうだな」
私の言葉にパラスは頷きを返した。
しかし、この一連の会話がどうにも気に食わなかったフラウがいた。
「パラス様? 今、少しだけ溜めの時間がありませんでした? こうぅ……否定したい気持ちが少しある感じの頷き方と言いますか?」
完全なる疑念の目を見せて言うフラウ。
パラスの額から一滴の汗が出てた。
………。
……まさか、な?




