前々世【6】
「ここから、そこまで遠くない所に、話しをするのに適した喫茶店があるんだ。そこで話しをしないか?」
「へぇ、そんな所があるんですね? 流石はトウキだ。近所に便利なお店がある」
私の言葉に、リンネル君は少し感心する様な台詞を口にした。
「……? オーサにはないのか?」
ちょっと意外だ。
オーサは、西側諸国では一番の大都市だったし……感覚的にはトウキとそこまで大差ない街だと思っていたんだがな?
「いえ、無い訳ではないのですが、トウキ程の数は無いと言うか……そんな所です」
「そんな物なんだな?」
まぁ、私はトウキ人だ。
そもそも大陸からして違う外国に関しては、やっぱり良く分からないと言うのが、正直な考えだった。
……ま、そこはともかくだ。
今は地元の話しを悠長にしている場合ではない。
一時間や二時間で、しっかり全てを把握する事が可能かどうかも分からないまでに、聞きたい事がたっぷりあるんだからな?
「……ま、取り敢えず行こう。さっきも言ったけど、そこまで遠い場所じゃない……あ、あと結構コーヒーが美味いから、頼んで見ると良いよ?」
「そうですか。それは楽しみですね?」
答えたリンネル君は、柔和に微笑みながらも私に声を返した。
◯◯◯●●
十分後、私は学園付近にある喫茶店へとやって来た。
厳密に言うと、戻って来たと表現した方が、よりしっくり来るかも知れない。
周りを見れば……うむ、フラウ達は居ないな?
どうやら、フラウ達は既に帰ってしまった模様である。
まぁ、それもそうか。
あれから一時間は経過しているからな?
……でも、フラウの場合、この店にニ〜三時間は入り浸る……なんて事も良くあったから、まだこの店にいたとしても、然して驚く様な事でもなかったんだけどな?
ま、どっちにせよ、居ないのなら居ないで結構な話しだ。
現状……余り良い話しにはならないだろうからな?
余談だが、サービエ君は早々に帰ってしまった。
個人的には、居ても居なくても構わない相手だったし……なんなら、憎まれ口しか叩かないから、居なくなってくれて結構な話しではあったんだけど、その反面で思う部分がある。
アイツは何をしに来たんだろう?
私が知る限りだと、リンネル君の後からやって来て……私の事をモルモットと見下した事以外に、主だった行動を取っていない気がする。
結論からして、私に安い喧嘩を売っただけ。
本当に、何をしに来たのだろうか?
ま、そこは良いや。
恐らく、サービエ君……いや、サービエは私にとって純然たる敵対者になるのだろう。
完全に決まった訳ではないが、もはや確定の域に到達している。
ただ、リンネル君の弟……って部分がネックだなぁ。
顔が可愛いと言うのも大きい。
だって、本気で殴るのが可哀想になるんだ物。
……ま、楯突くなら容赦しないけどな!
「エスプレッソで良いか?」
喫茶店の一角にあるテーブル席に腰を下ろした私は、向かい側に座るリンネル君へと軽く声を掛ける。
エスプレッソを勧めた理由は簡単だな? 普通にお勧め出来るだけ美味しいのだ。
「うん、それで構わないよ?」
リンネル君は柔和な微笑みを作りながらも、コクリと頷いてみせる。
ふぅ〜む。
こうして、改めてリンネル君を見据えると……普通に穏やかなイケメンなんだよな。
少し、私の好みとは異なるが、世間一般では数多の女子から黄色い声援を贈られる事、間違いなしな美形と言えた。
この三兄弟は、それぞれの個性こそあれ、それなりに美形なのだから恐れ入る。
サービエは、口さえ開かなければ、無条件で守って上げたくなるまでに可愛いショタ系の顔をしている。
ガドレーは、見た目こそ少し剣呑で、チンピラっぽい風貌を醸し出しているが……だからと言ってブサイクなのかと言えば、やはりその限りでは無いのだ。
余り付き合いたくはないが、それなりに顔は整っている。
これらを考慮すると、この三兄弟は『全員が美形』で共通しているのかも知れないな?
……って、そんな事はどうでも良いんだった!
「じゃあ、本題と行こうか?」
店内のスタッフにエスプレッソを二つ注文して間もなく、私はリンネル君への質問タイムを開始した。
「ああ、僕の知る限りの事は、しっかりと嘘偽りなく話すつもりだよ?」
リンネル君は即座に頷いた。
……以後、私はリンネル君に色々な質問をぶつけて行く。
その内容を事細かに話すと、かなり長くなってしまうので……ここでは軽く私が聞いた話しを箇条書きで示し、纏めた物を述べる事にして置こうか。




