前々世【3】
その時だった。
「……へぇ、凄いね? リダ先輩? まさかその状態で『共鳴』すら起こす事が可能なんだ? やっぱりオリジナルの魂ってのは、僕らの予想を遥かに上回る現象を引き起こして来るんだね」
思わぬ方角から声がした。
声の主は……確か、リンネル君の弟だったか?
昼休みに少しだけ顔を合わせた事があったのだが……顔だけは鮮明に覚えている。
私好みのショタ顔だと言う事をっ!
名前は……何だっけ?
確か、サービスエリアに近い名前だった事は覚えているんだけどなぁ……?
こんな事を考えていた時だった。
「なんだ、サービエ? お前も来たのかい?……そんなにこの僕が信用ならなかったとでも?」
リンネル君が、私が密かに考えていた悩みを解消してくれた。
そうそう、サービエ君だよ!
もう、本当……さぁ?
私って、名前だけはしっかりと覚える事が出来ないんだよねぇ……。
この名前を覚える記憶力の無さは、どうしようもないのか……なんて、他人事の様に落ち込んでしまう事もしばしばだ。
ま! 実はそこまで悩んでもいないんだけどなっ!
閑話休題。
いつの間にか廃工場の中へとやって来ていたサービスエリア君……もとい、サービエ君はゆったりとした足取りのままリンネル君の近くまで歩み寄って来ては、
「別に信用が全くない訳ではないよ、兄さん?……ただ、兄さんは少しリダさんに肩入れをし過ぎなんだよ? 僕やガドレー兄さんと『研究の方向性が違う』のは知っているつもりだけど、所詮は単なる『モルモット』何だからね?」
やや注意する形でリンネル君へと答えていた。
……う〜むぅ。
ここでも出て来たよ。
モルモットと言う単語が。
確か、ガードレールも同じ事を言っていた。
そして、私を大きく見下す様な態度を取っていた事も……だ。
同時に気付いたよ。
この、サービエ君もまた……あのガードレールと同じ様な視線を私に飛ばしていたと言う事実を、さ?
極論からすれば、私は既に研究所の研究材料の一つに過ぎない感覚なのだろう。
人間を研究対象にする時点で、鬼畜外道の所業だと思えると言うのに、あたかもそれが当然と言わんばかりの態度を取っている様に見えてならない。
他方のリンネル君は……微妙に違った。
少なからず言える事は、
「モルモット?……相変わらず、サービエは研究所の人間に大きく肩入れしているみたいだね? 僕らのお父さんはそれを望んだのかい?……答えは否だ。むしろ違いに共存する道を選べと言ってなかったかい? 僕はリダさんを単なる研究材料になどしたくはない……互いに共存共栄する事が可能だと考えているんだ。研究所にある、理性のない化け物の様な存在ではなく、リダさんにはちゃんと理非を判断する事が出来る知力と理性がある。この時点でモルモットと考える時点でおかしな話しである事に気付くべきだと思うんだよ?」
この様な台詞をナチュラルに吐き出す事が出来る時点で、完全なる敵対者と判断するのは早計なのではないか? と言う事だ。
二人の会話を聞く限り、同じ研究所に存在する人間でも、異なる思想を持っていると言う事が分かった。
一つは、私を単なるモルモットとして考えている鬼畜外道な思想。
そして、もう一つは協力者として仰ごうとする思想。
私としては、後者であるのならある程度の酌量の余地があると思える。
何らかの事情から、私へと一定の協力を要請したいと言うのであれば、事と次第によっては喜んで協力しても構わない。
二度言う様で恐縮ではあるが……飽くまでも事と次第によりけりではあるんだけどな?
しかしながら、ちゃんとした理由があり、私も納得する事が可能であれば、協力する事も吝かではないぞ?
……が、前者に関しては全くの問題外。
人を人とも思っていない様な思考の持ち主であったのであれば、どの様な理由があろうと絶対に協力する筈がない。
尤も、私の意思なんぞ最初から考慮しているとは思えない話しではあったのだが。
……ま、何にせよ、だ?
「……で? 今度は二人で私を襲うつもりか?」
私は片眉を捻る形で、二人に向かって声を吐き出した。
すると、
「もちろん! 今がチャンスだからね?」
満面の笑みで即答して来るサービエ君と、
「二人掛かりなんて、アンフェアな事はしたくないね? サービエはどう考えているか知らないけど、僕はここで見ている事にするよ」
サービエ君とは真逆の態度で口を動かして行くリンネル君の姿があった。
「……はぁ? 何を言ってるのさ? リンネル兄さんっ⁉︎」
サービエ君はかなり驚いた顔になって言う。
モルモットを捕まえる……と言う、下衆な思考が根幹にあるだけに、リンネル君の考えを理解する事が出来なかったのだろうな?
常識の上で行くのなら、リンネル君の言い分の方が正しいとは思うんだが。




