前々世【2】
結局の所、私にはリンネル君の真意は読めない。
単純に彼の言葉を尊重するのであれば、リンネル君は私にとって完全なる敵対者とは言い難い……と言う事になる。
しかしながら、私が今知り得る情報を元に考慮するのであれば、リンネル君は完全なる敵対者となるに相応しい相手としか、他に表現出来ないのだ。
判断材料が乏しいからなのか?
リンネル君の言葉を鵜呑みにしているからなのか?
私の中では、未だ明確な回答を出す事が出来ずにいた。
否、一つだけある。
今いる、リンネル君を力づくで倒せば、彼から情報を得る事が出来る……かも知れない!
ここは飽くまでも可能性の問題だ。
強引にはっ倒した所で、口を割らない可能性はある。
その逆に、話し合いで解決する可能性もまた、ゼロではないのだが。
けど……もう、後者の選択肢は残されていないだろう。
眼前のリンネル君は、俄然断然、闘志に燃えていたのだから。
仕方ない。
平和主義のリダさんではあるが……ここは、己の活路を見出す為にも、リンネル君にトウキ人の根性を見せてやろうじゃないか!
「素直に言うと……困惑してる。リンネル君が敵なのか味方なのか……やっぱり分からない……いや、違う。今の私には敵としか他に言う事が出来ないレベルだ」
「今は、それで構わないよ……うん、今はね?」
なんとも意味深な台詞を口にしてきたリンネル君は、その直後に素早く地を蹴って来た!
……速いっ!
基本的な身体能力が段違いだ!
思った私は、即座に補助魔法と補助スキルを発動させる!
超攻撃力上昇魔法レベル99!
超防御力上昇魔法レベル99!
超身体能力上昇魔法レベル99!
超龍の呼吸法レベル5!
「……っ⁉︎」
瞬時に能力を爆上げさせた私を見た瞬間、リンネル君は目を大きく見開くと、突進状態で突っ込んで来た体制から、素早く後退へと切り替える。
……うむ!
反応速度も申し分なしだ!
さっきのガードレールとは比べ物にならない。
なんと言うか? リンネル君の方は、ある程度の場数を踏んでいる模様だ。
素早く後退したリンネル君を見た私は、追撃する形で……
ダンッッ!
……素早く地を蹴る。
「おぉぉぉぉぉぉぉっっ!」
精神を集中させ、右手の拳に全ての神経を掻き集める!
無意識の内に吠えてしまった。
特に口から咆哮の様な声を出すつもりはなかったのだが……どうしてか、私の喉から勝手に放出されたかの様な? ともかく、自分でも驚く様な声が、口から飛び出て来た。
ドンッッッ!
後方へと避ける形で後退したリンネル君に飛び付く形で振り抜いた私の右拳は……しかし、リンネル君の右腕にガードされてしまう。
けれど、私は思う。
これは、手応えがあった!……と。
「……くっ!」
ガードした筈だと言うのに、リンネル君は眉間を大きく歪めていた。
恐らく、ガードをした右腕に大きなダメージが生まれたのだろう。
どうにか防御する態勢を守ったリンネル君は、更に素早く後方へと下がってみせた。
軽く十メートルは飛んだであろうか?
秒を必要とせずに後ろへと逃げたリンネル君は、地味に険しい顔をしながらも、ガードした右腕を左手で庇う様に触っていた。
「……凄い、想像以上だよリダさん。本当にキミは人間なのかい? 既に一定の強化を受けている筈の僕ですら『大きく苦戦しそうだ』よ?」
そして、驚き半分のまま答える。
……ふむ。
その口振りからすると、だ?
「なんだ? もしかして、私に勝とうと思っていたのか?」
私は大仰なまでに意外そうな顔をして見せた。
リンネル君の感覚からすれば、かなり感じの悪い態度だったろう。
まぁ、ここは……なんと言うか、さっきから妙な高揚感が生まれてて……自分でも良く分からない内に、相手を挑発するかの様な態度を自然と取ってしまう傾向にあったんだ。
どうしてそうなるのかは……不明だ。
自分の事なのに自分でも良く分からないと言う……何とも不思議で、どうにも不安な状況下にあった。
……そう。
それは大きな不安にも繋がっていた。
自分でも抑えきれない、何とも不可思議な高揚感。
もはや、これは麻薬にでも手を出したジャンキーみたいな状況だ。
実際に麻薬の類を使った事なんぞないので、本当の所は不明ではあるんだが……きっと、この様なおかしな状態になるんじゃないのか? と、私なりに考える。
ともかく、自分が自分ではないかの様な気分だ。
もちろん、理由は不明。
訳もなく、気持ちがハイになっているんだから……本当に、私はどうしてしまったと言うのか……?




