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交換留学生からの洗礼【17】

 手紙には『町工場』と書いてあったが、厳密には『町工場だった場所』が、より正しい場所だな?

 十年ぐらい前までは、この辺りも結構賑わっていたんだが……なんらかの不祥事だか、なんだかがあって工場が廃れてしまった。


 以後は、土地の買い手も付かず、現在は単なる廃工場と化している。

 正直、こんな場所に好きこのんでやって来ようと考える奴は、秘密基地を作ろうと考える子供か、肝試しの感覚で真夜中に入ろうとする学生かのどちらかであろう。


 私は、そのどちらでもないがな!


 廃工場だけに、周囲は見事にボロボロだ。

 荒んでいると表現するのが妥当だろうか?

 どちらにせよ、余り居心地の良い場所とは言い難いな?


 廃工場の中に入ってから数分。


 中は、見事にがらんどうで、もぬけの殻と言うのがこれ程的確な言葉はない……と、言いたくなる様な状態だった。

 

 よって、中に人が居たのなら、入って数秒で見付けられる状況だった。

 数分も待ちぼうけを食らっている私的に言うのなら、未だ誰も居ないと言うのは、誰彼に聞くまでもない事実であった。


「……なんだよ? 誰も来ないとか言うオチはないだろうな?」


 もしかして、ここに来いと言う誘導作戦……なんて事はないよな?

 私をここに誘き寄せる必要性が何処にあるのかなんて知らないが……仮にそうであったとするのなら、私は相手の策略にまんまと引っ掛かった間抜けと言う事になってしまう。


 ぐぅ……それは地味に恥ずかしいのだが?


 そこから十分が経過。


 誰もやって来る気配はない。


 いよいよ以て怪しい。

 これは、やっぱり誘導されていただけであった可能性が浮上して来た。

  

 どうする?

 一旦、学園寮に戻った方が良いか?


 ……こんな事を考えていた時だった。


 ガチャッ!


 廃工場の入り口の方からドアの音がする。

 周囲に何もなく……かつ、無音状態であったが故に、普段以上に音が響いた。

 個人的に、ギギィッッ! って感じの音とかが響くかと思ったんだけど、存外そんな事はなかったな?

 もしかしたら、入り口の部分だけはキッチリ手入れとかしているのかも知れない。

 

 ……って、流石にそんな事をする様な奴はいないか。

 だって、廃屋の工場だものな……しかも入り口だけ手入れをして、なんの得があるのかも、良く分からん。


 手入れをしているかどうかはさて置き。


 ドアの向こう側からやって来たのは……っ!


「お前は、ウチのクラスにやって来た……トンネル君!」


「僕の名前はリンネルだよ、リダさん?……ふふ、相変わらず面白い人だね? 兄さんも変な呼び名で呼ばれてストレスを感じたと、さっき僕に愚痴をこぼしていた所だったよ?」


 トンネル君は苦笑混じりのまま、私の言葉に返答して来た。

 そうか、リンネルって名前だったか。


「そうか、それはすまない。あたしゃ……こうぅ……名前を覚えるのが大の苦手でさぁ……わざとじゃないんだけど、近い何かを連想させる形で名前を覚える事が良くあるんだ」


 私は、自分なりの記憶事情を元に、それなりの弁明をしてみせる。

 さっきのガードレールとは違い、こっちは気さくな性質をしているから、ちゃんと理由を話せば理解してくれるんじゃないのかなぁ……多分!


 そんな事を内心でのみ考えていた頃、


「僕がここに居る理由……もう分かるよね?」


 リンネル君はニコニコ笑顔のまま答えた。

 爽やかな笑みが……私には悪魔の微笑みにすら相当した!


 一気に頭が沸騰する!


「……ああ、大体の事情は分かるよ。それにしてもやり口が汚くないか? 私の娘を人質に取るなんてさ? 下手な悪党よりも悪党してると思うのだがっ⁉︎」


 脳内からほとばしるアドレナリンの勢いそのままに、私は怒気を言霊に乗せる形で叫んでみせた。


 ……すると、リンネル君は少し残念そうな顔になる。


「その点については、僕も同意したいね……自分達が正義だ善だと、偽善めいた言葉を口にするつもりはないけど、このやり方は極めてアンフェアだ……僕の兄が考えた提案ではあったんだけど、やはり乗り気にはなれないね」


 答えたリンネル君は、間もなく重々しい吐息を吐き出していた。


「それなら、アリンをさっさと返してくれないか? 不本意なんだろう?」


「そうしたいのも山々なんだけど……でも、残念なお知らせがある。一つは既にアリンちゃんは僕達の手から離れ、オーサの学園へと転送されている。恨むなら、僕ではなく兄さんにしてくれないかな? 僕の意思とは関係なく、勝手にやった事だからね」


 ………。


 リンネル君の言葉を耳にし、私の頭が真っ白になってしまった。 

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