交換留学生からの洗礼【14】
「私の愛が痛烈にバーニンングッッッ!」
勝手に燃え尽きろっ!
爆発したバアルが、アホな事をほざいて吹き飛んて行く中……冷静に考えるとバアルが居れば、簡単に脱出する事が可能であった事実に気付いた。
そう言えば、バアルは空間転移魔法が使えたんだったな……。
……チッ! クソ、仕方ないなぁ……。
思った私は、吹き飛んで目を渦巻きにしていたバアルへと治療魔法を発動させていた。
本当に面倒な事をさせるんじゃねーよ……ったく!
「やはりリダ様……お優しい」
「社交辞令はもう良い……取り敢えずちゃんと本題を言え? まさか本当に私ソックリ(胸は除く)を盗まれたから……とか、くだらない理由ではないだろうな?」
「実はその通……りではありません! はい! そろそろ真面目にお伝え致しますので! その右手! 右手はおやめくださいぃぃぃっ!」
再び爆破しようとした所で、バアルは即座に言い直していた。
だから、最初からそうなると分かっているのに、どぉぉぉぉしてお前はそうアホな事ばかり言って来るんだ? マジでっ⁉︎
「じゃあ、勘弁してやるから、さっさと言えよ……本当に、どうしてお前はいつもそうなんだ? もう少し真面目にやってくれないと、私の精神が保たないのだが?」
「そうですか? リダ様は鉄壁の肉体と精神と面の皮を持つ最強の悪魔……あ! いえいえ! 実はこれも冗談なんですよ! はい! 本当は強く優しく美しい、素晴らしい女性だと思っております! ほ、本当ですよ? マジですよ? だから、右手! ほんとぉぉぉにそこをすぐ出すのはやめましょう!」
「そう思うんなら、人の神経を逆撫でさせる様な事を言うんじゃないよ! つか、さっさと本題を言え! マジなトコ!」
「わ、分かりました……言います。実は私の愛するリダちゃんが攫われてしまった時、オマケでアリンまで拉致られてしまったのです!」
「……っ⁉︎」
バアルの言葉を耳にした瞬間……私は思わず息を飲んだ!
同時に頭が真っ白になってしまう。
ウチのアリンちゃんが?……拉致られた、だとっ⁉︎
つか、オマケで盗まれたのは、お前の人形の方だろうがぁぁっっ⁉︎
「冗談だろ?」
目の前が真っ暗になってしまったかの様な錯覚にさえ陥ってしまう。
「残念ながら……冗談ではありません……私も必死で抵抗したのですが……この様で」
バアルは目線を下に降ろしながらも声を返した。
同時に、私はどうしてバアルが大怪我を負っていたのか? その理由を理解した!
つまるに、バアルはアリンが連れ去られてしまう状態を、必死で阻止しようとしていたのだろう。
結果……負傷したバアルが空間転移で私の前へとやって来たのだろう。
クソッ! そう言う事か!
「バアル! アリンの所在地は判明してるか? 今直ぐ向かうぞっ!」
私は、遮二無二訴え掛ける形でバアルへと叫んだ!
「………」
しかし、バアルは言葉を返さない。
……いや、待て?
ありとあらゆる情報を瞬時にキャッチする、ハエ軍団の情報網がお前にはあるではないか!
恐らく、アリンが攫われてしまう所を、誰よりも逸早く知る事が出来たからこそ、阻止しようとしたのだろう?
そもそも、アリンは何処にいた?
確か、私の前でブクロの話しをしていたぞ?
普段とは全く違う場所へと向かっていたと言うのに、それでも素早くアリンの行動を把握する事が出来たのは、単にお前の持っているハエ軍団のとてつもない情報網があったからだろう?
トウキ都内で起こった出来事であれば、例え些末な出来事でさえも全て把握する事が出来ると言う、尋常ではない情報網だ!
そうだと言うのに……それなのに。
「まさか……アリンは行方不明だと言うのか?」
信じられないと言うばかりの表情で尋ねた私へ、
「……今回ばかりは、自分の無力さを痛感させられております」
バアルは力無く呟いた。
………。
私の頭は真っ白になる。
心成しか、目眩がして来た……。
これも、私が招いた怠慢と言うべきか。
私は内心でのみ呟く。
思えば、今回の交換留学生のバックには、人工邪神の研究所がついている。
ここはもはや確定と述べて良いだろう。
この時点で、私はアリンに対しても一定の警戒心を持つべきであったのだ。
ルゥ姫と一緒に、なんだか良く分からない限定人形を一緒に買いに行く……なんて、悠長な事をしている場合などではなかったのだっ!
そして、アリンちゃんは特別であるとも考えていた。
前世が邪神であったからなのか? 詳しい事は知らないが、アリンちゃんは齢三歳にしてそこらのゴロツキが一万人襲って来ても、まとめて返り討ちにしてしまうまでの、とてつもない能力を誇示していたからだ。
うちのアリンちゃんに限って、誘拐される様な事はないな?
むしろ、誘拐犯の方が可哀想だ!
……こんな事を考えていた程。
この考えが、如何に甘い物であったのか?
その事実を……現実を、私は痛切に実感するしかなかった。




