巨人の里・カウル【2】
………
……
…
「おーい、リダ~? 朝だよ~?」
声がする。
朝……か?
「……ふ」
良くわからないけど、助かった!
もしかしたら、あの強烈な落雷の後にもう一人の私がなんらかの攻撃をして来て、私が致命的なダメージを受けた事で夢から解放されていたのかも知れないけど……そんな事はどうもで良い。
「これは駄目だな……鍛練所のレベルじゃない」
現実世界に戻って来た私は、誰に言う訳でもなくぼやきを入れた。
「……? また夢の中で修行してたの? 相変わらず、やる事が非常識だよねぇ……」
そうと答えていたのはルミだ。
最近は学校の日だと、こうして起こしに来てくれる。
お陰で、目覚ましい時計は御役御免だ。
なんにせよ、助かった。
「ありがとう、ルミ……今回はマジで死ぬと思った」
「リダが?……どんな地獄に行って来たの?」
ルミはギョッとした顔になって聞いて来た。
「場所的には近いよ。そこの裏山かな? ただ、相手は私自身だった」
「うげ……そんな事も出来るのか……で? 裏山が消滅したとか?」
私はどんな魔神なんだよっ!
大体、夢の世界は壊れない仕組みになってると言うか、そう言う設定にしてるから、そもそも消滅なんかしないからな?
「いつも思うけど、私を何だと思ってる……そんな事が出来るわけないだろ?」
「リダの事はリダだと思ってる。そんな事なんか朝飯前だと思ってた」
うーむ。
こいつの頭の中を一度、真っ二つにして中を覗いて見たくなる様な事をしれっと言って来たな。
……まぁ、いいや。
良く良く考えたら、私もルミの事はルミだと思ってる訳で。
興味本意だけで行動出来て、そこ抜けに明るい天然姫だと思ってる訳で。
つまり、どっちもどっちなのだ。
「ふぁ~……ぁ。取り敢えず起きるかな」
私はのっそりと身体を起こしてみせる。
心なしか地味に身体が重かった。
多分、気のせいではない。
このスキルの難点は、寝ていても身体に負担が掛かると言う事だ。
逆に言うと、この身体の負担が掛かっている分だけ、自分の実力になっているとも言えるんだがな?
ここらの関係で、ハードな『睡眠学』を連続して行うと、身体も言う事が効かなくなる。
ま、まぁ……今日の授業内容は大した事ないしな。
てか、授業自体がない。
理由は簡素な物だ。
「今日は卒業式だけど……思い入れのある先輩とかいた?」
……と、ルミの言った台詞通りだ。
本日は卒業式だ。
当然、私らは在校生として見送る立場だな。
明後日には終業式も行われ、春休みまでのカウントダウンとなっている。
「そう言う先輩がいたら良かったんだがな」
私は苦笑しながら答えた。
そうな……いたら良かったよな?
例えば? イケメンな先輩とかいて? 今日が卒業式で……もう逢えなくなってしまうから、思い切って告白して来る!
……とか、ね?
そう言う夢みたいな事を少しは考えてしまう私だよ。
しかし、現実なんてのは当然、これら諸々の妄想を至極当然の様に破壊し、塵も芥も存在しない現実を私へと当然の様に見せてくれる訳だ。
「てか、ルミはいないのか? そう言う……なんてか、今日は卒業だからって事で、思い切って自分に告白して来る先輩とかさ?」
「告白して来る先輩? うーん……」
ルミは、軽く悩んで見せる。
しばらくしてから、
「十人位、それっぽい人がいたかな?」
「そうか、爆発したいんだな?」
しれっと、ふざけた事を言うルミ姫。
くっそぉっ! だから可愛い系女子は嫌なんだっ!
ゴキブリホイホイにだって負けないオーラとか、無秩序に男へ撒き散らしてっ!
「なんでそうなるの? 私的には、むしろ面倒と言うか……迷惑?」
「よし、今から三分だけ時間をやろう。その内に全力で逃げろ。私は追いかけてお前を爆破する」
「いやぁぁぁぁっ!」
その後、私は鬼の形相でルミと鬼ごっこした。
リア充爆発しろっ!
●○◎○●
必死で逃げたルミに爆破魔法を使って、スッキリした所で、私は卒業式に参加した。
当たり前と言うか、なんと言うか……感慨深い物がなんもなかった。
そもそも、私は転入生だったし? 一年だし?
部活にも入ってないから、卒業する先輩もいない。
「私は、この式に出る必要があったんだろうか?」
「……まぁまぁ」
取り敢えずエスケープしてやろうかと色々な算段を頭の中で考えていた所で、ルミが制止して来た。
そんなルミは若干、不機嫌な顔をしていた。
一体、何があったと言うのか?
「なぁ、ルミ? なんか怒ってないか?」
「別に怒ってないよ? 朝、ちゃんと起こして上げたのに、そのお返しが爆破だったりとか、全然気にしてないよ? 仕返しにユニクスさんに頼まれてた偽装婚姻届けを、ニイガ王家の権力を使って認可しようとか、少ししか思ってないよ?」
「すいません……もうしないから、許してください」
私は素直に頭を下げた。
冗談っぽいが、お前が言うと冗談に聞こえない。
てか、姫様になんて事を頼んでるんだ、あのアホ勇者!




