交換留学生からの洗礼【9】
……ま、良いさ。
事情はどうあれ、早くここから脱出しないと。
トイレの戻りが遅過ぎると、まぁ〜たフラウの奴に『便秘なの?』とかって言われてしまう。
フラウとルミの二人は、どうしても私を便秘女に仕立てたいみたいだからな?
……なんでそんな事になっているのかは知らないが。
「そろそろお喋りはおしまいにしようか? 少々手荒くなってしまうかも知れないが、ここは実力行使させて貰う」
告知する形で答え、
ダンッッ!
私は地を蹴ると、ガードレールとの間合いを瞬時に縮める。
同時にガードレールがガード態勢に入ろうとするが……遅いねぇ。
ドンッッッ!
「ぶはぁっっ!」
ガードレールがガードするよりも早く、ヤツの右頬に私の右拳がめり込む。
「そろそろ降参したらどうだ? 私がまだ『大人しい内』に、なぁ……?」
私は底意地悪く微笑んでみせる。
我ながら嫌な笑みだ。
しかしながら、この手の輩は普通の態度を取っても全然言う事を聞いてくれない。
些か不本意ではあるのだが、多少は威嚇する様な態度も取らせて貰う事にしよう。
「……ちっ。まさか、単なる人間の……しかも、モルモットに過ぎないザコ相手に、これを出す羽目になるとはな」
……ん?
なんか言ったか? クソザコ野郎?
圧倒的優位な状態であると言うのに、未だ減らず口を叩いていたガードレールは、舌打ちをしながら……おや?
そこらで気付く。
ガードレールのエナジーが爆発的に上昇していた事に。
外見も変わったなぁ……おい。
コイツ、本当に人間なのか?
身体が一回り程度大きくなり、ムキムキのマッチョマンみたいな体躯へと変わって行く。
服装も、これまでの制服姿から、悪魔っぽいプレート・アーマみたいなのを装着する姿へと変化して行く。
「感謝しろよ? ザコ女! この俺が、本気でお前を相手してやろうってんだからな!」
色々と変化したガードレールは、好戦的なイキリ野郎特有の高飛車な態度を露骨に取りながらも、私へと傲慢な台詞を飛ばして来た。
「……で?」
私は言う。
正直、だからどうした? と言いたい。
光栄に思って欲しいのは、むしろ私の台詞では無いのか?
この程度のパワー・アップで驚いていたのなら、天下の会長様は務まらないね!
「フンッ! まだ余裕ぶっコいていられるのか? 大した余裕……っ!」
相も変わらず傲慢かましているガードレールがいた所で、私の蹴りを叩き込むも……どうにか躱して来た。
ふむ。
なるほど、確かに少しは対応能力が上昇している模様だ。
事実、私が感じたエナジー量は、現時点の私を大きく上回っている。
……ま、飽くまでも現時点での私を、なんだけどな?
けれど、私はこれで十分だと思っている。
理由は、間もなく現実として眼前に証明されるだろう。
私の蹴りを避けたガードレールは、すぐさまカウンターとして右ストレートを向けて来た。
次の瞬間、
グキョッッッ!
鈍く……鈍重な音と同時に、ヤツの顎へと私の肘打ちが入っていた。
恐らく、ヤツは私の動きを見る事は出来なかっただろう。
つまるに、これが答えだ。
右ストレートを打って来たと同時に、私は既に相手の動きを予測し、先読みする形で身体を捩っていた。
そこからストレートを躱すかどうかのスレスレの所で、ヤツの右腕を自分の左腕で掴み、グイッ! っと引っ張る。
すると、ヤツは不意を突かれる形で前のめり気味の態勢へと、自然となってしまう訳だな?
その、前のめり状態になっている顎へと、私の肘轍が入った訳だ。
相手の行動を予測し……尚且つ寸分の狂いも無い絶妙なタイミングで相手の懐へと潜り込み、これまた1ミリ秒単位のジャスト・タイミングで肘轍を食らわす事で、従来の威力を大幅に凌駕する程の大ダメージを与える事が出来る。
極論から言おう。
コイツは、能力こそ高いが技術力がない。
それも、致命的と述べて良い程だ。
補助スキルを発動していない関係上、能力値で劣っている私ではあったが、ハッキリ言って能力差を技能で十分カバー出来るレベルだな?
私の予測が何処まで当たっているのかまでは分からないが……恐らく、コイツは分不相応な能力上昇を、差したる努力をする事なく手に入れていたのではないのか? と、考える。
通常、己を強くする為には相応の努力をするよな?
それこそ、同じ事を何回も何回も……コツコツと飽きずに、数え切れない程の回数を繰り返す。
こうする事で、自分の身体に技と言う物を覚えさせる。
既に熟達している内容であっても、より速く……より正確にする為に、とことん最高を追従したいが故に、更に練習を続ける。
一切の妥協をしない……妥協など認めない信念から、強さと言う物が生まれる。
コイツには、これがないのだ。




