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交換留学生からの洗礼【7】

 喫茶店に入り浸って……早、一時間。


 冷静になって考えてみると、コーヒーとデザートを人数分頼んだだけで、一時間も雑談で盛り上がっている私達は、お店側からすればこの上なく迷惑な客なのではなかろうか?

 こんなにも利益が上がらず……回転率にも大きく影響してしまう様な客であれば、私が店主側ならソッコーで追い払いたいと考えてしまうぞ。


 ……まっ! 客だから深く考えないけどな!


 閑話休題。


「ちょっと、トイレに行って来る」


 一時間ばかり経過し、話題がアリンちゃんからトウキのファッションへと変わり……話題の渦中にいた私も、すっかり蚊帳の外へと追い出されつつあった所で、私はそそくさと席を立つ。


「あ、うん! いってらっしゃい」


 軽く手をヒラヒラさせながら言うフラウと、


「気を付けてね〜?」


 ニコニコと笑みを混じらせて答えたアラビカの二人に見送られる形で、私はトイレへと向かった。


 ……てか、単なるトイレへと向かうだけだと言うのに『気を付けてね〜?』はないと思うぞ?

 もしかして、西側諸国では相手がトイレに行く時にですら、その様な言い回しをするのだろうか?


 苦笑混じりになって考えた私は、店の端っこにあるトイレのドアを開けた。


「………は?」


 ポカンとなる。


 ドアを開けた先は……真っ暗な、何かだった。


 次の瞬間、


 ドンッッ!


 不意に、背中を押される様な衝撃を受け、


「おわっ⁉︎」


 思わず前のめり状態で、真っ暗な何かへと突っ込んでしまった……その時、


 バンッッッ!


 ドアは勝手に閉まった!


「……へ?」


 思わず間の抜けた声を出してしまう。

 我ながら、途方もなく格好が悪かった。


 しかしながら、現状は格好を気にしている場合ではなかった。


「……ここは、何処だ?」


 眉を顰めながらも周囲を軽く見渡した。

 どう考えても、ここは喫茶店のトイレには見えない。

 当然と言えば当然だ。

 中に入ってみて分かったのだが、無駄に広い空間がそこにあった。


 周囲が無駄に暗いので、私は自分自身に暗視魔法ナイトヴィジョンを発動させる。

 私以外の誰かが居るのであれば、照明魔法トーチを選択するのだが、今回は私しか居ないからな?

 それなら、私だけが自由に暗闇を行動出来る魔法で良い訳だ。


 ともかく、暗視魔法を使った事で、周囲がより鮮明に見える様になった。


 ……ふむ。

 何もないな?


 見事なばかりに何もない。

 抽象的に言うのであれば、いつぞやの並行世界での一件で、最後の激闘を繰り広げた場所と似ているな?


 あっちは、ひたすら真っ白な世界だったのだが……こっちは、ひたすら真っ暗な世界だ。


 あと、ここは並行世界と言う訳でもないのだろう。

 なんて言うか……どうにも不快な空気が、私の精神へと直接まとわり付いて来ているかの様な? そんな、気色の悪い感覚が私にやって来ていたからだ。


「ぐむぅ……出口は何処だ?」


 軽く歩きながらも、私は元の場所へと戻る足掛かりを探して見る。

 だが、歩けど歩けど、周囲の背景は一向に変わってくれる気配がない。


 私は単純に用が足せれば、それで良かったのだが?

 別段、火急を要する状況まで追い詰められては居ない物の……地味にトイレへと向かいたい欲求なんぞも存在していた私は、

 

「このまま、ここで用を足すとか……絶対にやりたくないのだが?」


 人間として最低限のプライドと、放尿への欲求との戦いだけは避けたいと、地味に困惑していた。


 私の前に、一人の男がやって来たのは、ぼちぼち私の膀胱が一定のサインを投げかけて来そうな頃であった。


「……どうだ? リダ・ドーンテン? お前にとって『故郷』と言える場所へと『戻って来た』感想は?」


 私の前へと悠然と立ち、品のない笑みを浮かべたまま答えていたのは、


「お前は……ガードレールッ⁉︎」


「ガドレーだアホッ! 何処の世界に、そんな道路の脇役みたいな名前を付ける親がいるんだよ! しかも真剣な顔で言うなよ! 少しヘコんだぞ! 俺がっ!」


 ……あ、一応気にしてるのね?


「そうか、それはすまなかった……ガードレール!」


「だから、ガドレーだと言ってんだろがぁっ⁉︎ マジで奥歯ガタガタ言わせてやろうかっ⁉︎」


 ガードレールは額に青筋を立てて、猛烈に怒り狂っていた。

 ガドレーもガードレールも、そこまで変わらないだろうに。

 細やかな事で、そこまで怒らなくても良いだろう?

 カルシウムが足りてないんじゃないのだろうか?


 ……そこはさて置き。


「……で、だ? お前はどうしてここに居る? ここが故郷とか言う寝言も合わせて聞こうか?……ああ、友人を待たせているから手短にな?」


 私は根本的な疑問を、ガードレールに投げ掛けた。


 この時点で確実に分かっている事と言えば……ここは、喫茶店のトイレではないと言う事だ。


 そして、喫茶店のトイレになんらかのトラップを敷いた事で、私をわざわざこんな所にまで連れて来ている。

 逆に言うのなら、コイツなら元の場所へと戻す手段も知っている……と、こうなる訳で。


 それなら、もう手取り早いな?

 コイツをぶん殴ってでも、こんな真っ暗な場所からおさらばする。

 ただ、それだけの話しだろう。

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