交換留学生からの洗礼【6】
アリンとルゥ姫の二人がソッコーで代金を支払い、脇目も振らずに喫茶店を後にしたのは数十秒後。
途中、私とすれ違っていたんだけど、アリンは気付いて居なかった。
……いや、もしかしたら気付いていたのかも知れないけど、普通にスルーしてた!
お母さんは悲しいわっ!
「……ったく。あの二人は、人形の事になると、途端に行動力が無尽蔵に湧き出るな……」
「……あはは、そうかもね」
詳しい場所までは分からないが、ブクロ方面へと旅立った事だけは理解していた私がいた頃、フラウが苦笑混じりになって相づちを打った。
そこらで気付く。
そう言えば、今日はフラウ達と一緒に喫茶店へと来ているんだった。
「すまん。ちょっと娘の事が気掛かりだったからな?」
未だ席に着く事なく、アリンとルゥ姫の様子を見ていた私に付き合う形で、フラウとアラビカの二人も立ったまま待っていた状況に気付いた私は、申し訳ない気持ちになって頭を下げてみせる。
すると、アラビカが笑みを作りながらも、私へと声を返してみせる。
「ううん……まさか学生の美空で、もう子供が居た事には驚いたけど……立派に母親してるなって、思ったよ。それにしてもトウキの人間は早熟なヤツが多いんだな……見た目は三〜四歳ぐらいにしか見えない子が、もう普通に喫茶店で友達とお茶を飲んでいたり……そうかと思えば、十代も半ば程度の学生が一児の母だったり……こんな事は、西側諸国ではあり得ない話しだよ。カルチャーショックって言うのかな?」
「安心してくれ。中央大陸でも、それは非常識レベルだから」
肩を竦めて答えたアラビカに、私は即座に反論していた。
この言い回しだと、私やアリンが歩く非常識って事になってしまい兼ねないのだが……しかしながら、私やアリンの現状がトウキの常識なのかと言うのなら、やっぱりその限りではない為、今回ばかりは妥協する形で話しを進めて行こう。
「そうだね! リダやアリンちゃんは非常識レベルだと思うよ? トウキだって、西側諸国と根本的には変わらないと思うから!」
直後、フラウも素早く賛同する形で口を開いて来た。
こう言う時だけ口を早く動かすのはやめてくれませんかねぇ?
「……そ、そうなんだ? はは、それを聞いて、ちょっと安心したよ。うん、そうだよなぁ? 私もさ? 幾らなんでもそんな事はない……って、思いはしたんだ。やっぱりリダとアリンちゃんがおかしいだけだったのか。うん! 納得した!」
そうと答えたアラビカは、完全に腑に落ちたと言わんばかりであった。
素直に納得してくれたのは良かったのだが……なんとも複雑な気持ちになってしまうのは、どうしてだろう?
やはり、私が歩く非常識である事を、アッサリ受け入れられてしまったからなのだろうか?
……くそ。
下手に妥協する事なく……もっと、違う言い回しとかにすれば良かった。
地味に後悔する私がいた頃、
「……じゃ、丁度アリンちゃんとルゥちゃん達が座っていた席が空いたから、そこに座ろっか?」
軽い口調でフラウが私とアラビカへと促すと、
「うん、それが良いね? 他の席は、なんだかんだで埋まってるみたいだし」
アラビカがすぐに頭を縦に振っていた。
見れば、確かに他の席は埋まっている。
今日は、いつもより少し混雑してる感じではあるな?
特段、何かある訳ではないのに、どう言う訳か? 結構混んでる。
……ま、放課後が始まったばかりだし、偶然来店客が多かった……ってだけなのかも知れない。
思った私は、フラウやアラビカの二人と一緒に、新天地へと旅立った、大志を抱く開拓者風味の人形オタク達が居座っていた席へと腰を下ろした。
……以後は、取り止めのない話しが始まった。
最初は、私の話題。
どうやら、アリンに幾許かの興味を持った模様だ。
まぁ、アリンちゃんは可愛いからな!
アラビカも興味を持たない訳には行かなかったのだろう。
うん、分かる! 分かるぞ、その気持ち!
母親である為、多少の贔屓目が生じてしまう物の、私は自慢の娘と言えるアリンの話しを語った。
……これが、前半の会話だ。
同時に、私が会話の中軸に入れたのは、ここまでだった。
ただ、アリンの話しを通じて、アラビカと一定のコミュニケーションを取れたのは大きかったな?
なんだかんだ言って、ここに来て良かったとさえ思う。
実際に話して見て改めて思ったのだが、アラビカはごくごく普通の明るい女の子だ。
西側諸国の交換留学生であり……他三名が胡散臭い連中ばかりであったが故、どうしても懐疑の眼差しをアラビカにも送ってしまったのだが、この警戒心を解いても大丈夫なのではないか? と思える程度には一定の理解を得る事が出来たんじゃないのかと思う。
本当……今回やって来た交換留学生の全員が、アラビカの様な子であったのなら、私も一切悩む事なく終わったのにな。
しかし、実際の所は……当たり前の当然の様に、そうは行かなかった。




