交換留学生からの洗礼【5】
アリンやルゥ姫は、私達が同じ喫茶店へと来店していた事にまだ気付いていないらしく、二人だけの世界を存分に謳歌する形で言葉のやり取りを交わしていた。
折角だから、軽くその一部を抜粋してお届けしよう。
「トウキの魔導師しゃんの情報によりゅと、マタンゴちゃんの夏限定・ウツノコラボVERが、とうとうトウキにも売り出されたらしいおっ!」
「……なっ⁉︎ そ、それは誠でござるかっ⁉︎」
あなたは何処のお侍さんかな?
いつの間にか、自宅にあるタブレットを持って来ていたアリンは、タブレットの画面を見ながらルゥ姫へと声高に叫び……そして、明らかに顔と言語のギャップがある台詞を臆面もなく語るルゥ姫の姿があった。
てか、トウキの魔導師って誰だよ?
恐らく、ハンドル・ネームの一種なんだろうが……もっと他に良い名前がなかったのであろうか?
「誠でごじゃるっ!」
ルゥ姫の言葉に、アリンは即座に頷いていた。
だから……外見と言葉との間に、痛烈なギャップがあり過ぎなんだよ? なんで、そんな古めかしい言葉をわざわざ使ってんの? アリンちゃん達は?
「なんて事でしょう!……これは、天からの思し召し? 早速、我らの聖地……アキーバへと向かわなければっ!」
どんな思し召しなんだ?
天の神様は、お前達に人形を与える事を望んだと言うのか?
そんな神様がいるとは、私には思えないのだが?
「親友よ……それは違うのでしゅ。確かに? 我ら同胞が群がる場所にして、最も重要な聖地でもあるアキーバを最初に思い浮かべてしまうのは仕方のない事だと思うんだお?……所がでしゅ! この『トウキの魔導師』さんがおっしゃるには? 既にウツノVERを購入しようと考える他の同志達が、三日程度徹夜する形で、既に在庫枠以上の人間が並んでいるとの事でしゅ。つまるに? 今から行っても購入は絶望的なのでしゅっ!」
「な、なんて事っ⁉︎」
アリンの言葉に、ルゥ姫は『ズガガガガァァァッッンッ!』って顔になっていた。
もはや、この世が滅亡するんじゃないのか?……って顔だった。
単なる人形に、スペクタクル映画の名女優だって即興で出来ないんじゃないのか? って言いたくなるまでに絶望感を漂わせていた。
「こ、こんな事が……くっ! もし分かっていたのなら、私は四日間徹夜してでも並んだと言うのに……」
そこから悔恨が極まった顔になり、両手コブシをギュッ! っと握りしめて口惜しさを身体で表現していた。
……これ、人形の話しだよな?
「ふっふっふっ!……まだ慌てる時間じゃないでしゅよ? 親友よ! この程度の情報であるのにゃら、アリンだって驚く事はありましぇん!」
「え? どう言う事?……も、もしかして、転売ヤーによる確約購入ルートを既に仕入れたと言うの?」
「チッチッチッ! そんな世間に唾を吐く輩の手を借りるべくもないルートを、アリンは発掘したのでしゅ! これを見て欲しいのでしゅよ、親友!」
もう、何処からツッコミを入れてやろうかと迷ってしまうばかりに草の生える会話を繰り広げる二人は……そこで、アリンが提示したタブレット画面を見て、しばらくフリーズしてしまう。
画面の中には何が載っているのだろう?
うーん……ここからでは、良く分からないな?
取り敢えず、人形の事柄なんだろ?
さっき言ってた、夏限定がどうのとか言うのか?
どうでも良いけど、今は秋だぞ?
厳密に言うと、ぼちぼち冬も迫って来ている状態ではあるのだが。
どちらにせよ、どうして夏限定の代物が秋と冬の中間点に位置するこの時期になって販売されていると言うのか?……ハッキリ言って、私には謎しかなかった。
しかしながら、その謎を解明したいとも思わない……だって、興味ないもの。
……と、こんな事を考えてた時だ。
「敵は本能寺にあり!……ううん、違う! ブクロにあったのねっ!」
「その通りだお! しかも、みんなは聖地の方にばかり注視していたんだお!……しかし、違う……そう、違うんだお! 実は、穴場としてブクロの外れにある小さなお店屋で、ひっそりと販売されていたんだおぉぉぉっ!」
アリンは背景に『バーンッッ!』って感じの効果音でも出て来そうな勢いでルゥ姫へと叫んでいた。
そこまで大仰にやる様な事ではなかった。
「な、なんて事……まさか、そんな所に……その様なお宝が隠されていたなんて……これは大発見! 行きましょう、親友よ! 第二の聖地になり得る、ブクロの地へ!」
「もちろんでしゅ! 二人で新たなるフロンティアを目指しゅんだおっ!」
二人は強い意志を込めて、互いに頷き合っていた。
ここだけを見ると、新天地を求める開拓者が、前人未到の新たなる旅へと向かおうと決意している様に見える。
実際は、ブクロに人形を買いに行くだけなんだけどな!
余談だが、ブクロと言うのは、トウキ都内にある中心市街地の一つだ。
ここからなら、鉄道一本で行ける場所だ。
つか、アリン達なら滑空魔法で十分もあれば到着するだろう。
私からすれば、新たなるフロンティアがあるとは思えない場所なんだが……どうなのだろう?




