交換留学生からの洗礼【3】
「そ、そんな事、私は言わないし! そこまで食い意地とか張ってないしぃぃっ⁉︎」
草が生えるフラウの声真似を前にして、ルミが顔を真っ赤にして叫んでいた。
地味に似ている上に、マジでルミならそう言いそうだったので、その恥ずかしさは通常比50%増し程度にはなっていたのだろう。
もう、見ているこっちが可哀想になってしまうレベルで赤面していた。
すると、フラウは口を尖らせる。
「じゃあ、何? もしかしてアラビカさんが嫌いなの?」
「それも違うよっ!」
ちょっとだけつまらない顔になっていたフラウに、ルミは素早く否定する。
この言葉を耳にした時、ルミなら一瞬躊躇するんじゃないのか?……などと思っていたのだが、どうやらそうでもなかった模様だ。
簡素に言うのであれば、ルミもアラビカに対して拒絶反応を示している訳ではないと言う意思を、しっかりとフラウには伝えたいと考える気持ちの方が勝った模様だ。
そして、ルミの態度を見たフラウもまた、アラビカを避けている訳ではない……と言う意思表示を、的確に汲んでくれた様子でもある。
あるのだが、だ?
「それなら、どうしてそこまで行きたくないの? もしかして、具合が悪いとか?」
今度はかなり心配気味の口調になってルミへと問い掛ける。
フラウの視点からすれば、ルミが美味しい物を拒否して来た……と言う時点で事件だ。
きっと、事情を知らないのであれば、私だって事件だと思うだろう。
ルミの食い意地レベルは、食欲の権化さえ裸足で逃げ出すからだ!
「なんか、思い切り勘違いしてない? 私の事を、意地汚い女の世界代表だと思ってるよね?」
フラウの言葉を耳にしたルミは、ちょっとだけイラッ! っとした顔になってぼやく。
そこまでは思ってないぞ、ルミ!
ただ、ちょっとだけ美味しい物と楽しい事を貪欲に求めるモンスターだと認識しているだけだ!
フラウも……私もっ!
「そんな事は思って……ないと言えば嘘になるけど、そうじゃなくて。私は単純にルミが病気に掛かってなかったのか心配になっただけだよ。それ以外に他意はないよ……ちょっとしか!」
「ちょっとはあるんじゃないのさっ!」
割りと真剣な顔をして言うフラウに、ルミはソッコーでツッコミを入れた。
きっと、これがフラウなりの本音なのだろう。
素直に心配しているんだろうけど、その理由がルミの趣向である事に変わりはないからだ。
けれど、もう少し配慮と言う物を考慮しても良いと思うぞ……。
少なからず、今回に関して言うのなら……な?
やれやれ、仕方ないな。
ここは、私も少し助け船を出してやろうではないか。
「ルミは、ルゥ姫と少し用事があった……みたいな事を言ってなかったか?」
「え?……あ、あああ! あったね! うんうん、そう言えばそんなのがあったよ! 用件は知らないけど!」
それとなく答えた私の言葉に、ルミは即座に合わせる形で頷いて来た……来たんだけど、最後の言葉は多足スペシャルなんですけどっ⁉︎
本当……無駄に素直な奴だ。
まぁ、それがルミの良い所でもあるんだけどさぁ……?
「………」
フラウは訝しい顔になる。
しかし、しばらくの間……少し悩む様な仕草をした後、
「……うん、分かった。用事があったのなら仕方ないね」
ルミの言葉を尊重した。
……うむ!
フラウはフラウなりに、ルミへの気遣いを忘れなかったと言う事だな!
親友であろうと……否、親友であるからこそ、相手の気持ちを自分の事の様に捉えられる。
はは、そうだよな? ルミとフラウは既に親友と述べて相違ない関係だ。
そこらを加味するのであれば、フラウだってあれこれと考えるだろう。
もっと言ってしまえば、フラウは結構気遣い上手だ。
子供の面倒見が良かったりするのも、そこらに理由がある。
どうやら、私が悩むまでもない事柄であった模様だ。
「そう……それは残念」
他方、アラビカも苦笑混じりになって答える。
でも、顔は少しだけ寂しそうだ。
恐らく、ルミが自分の事を避けている様に見えたのかも知れないなぁ……フラウとは違い、ルミの性質をしっかり理解出来る域に至るまでには、ちょっと時間が足りていないのだから。
「……うん、ごめんね? 次は、ちゃんと行く様にするから」
フラウとアラビカの二人へと軽く頭を下げて答えたルミは、可能な限りの愛想笑いを顔に浮かべながらも言う。
そんなルミは、自分へと言い聞かせているかの様でもあった。
次はちゃんと行こう……と言う、自分の台詞に対してなのだろう。
今は色々あって、心の整理が出来ていないが故の事だ。
それなら、次回は大丈夫……なのかも知れない。
ここらは、ちょっと分からないけどな? ルミって地味に根性なしだから!




