交換留学生からの洗礼【2】
「アラビカさん、リダは魔王っぽくはあるけど、本当に魔王ではないよ? 確かにそう言いたくなる気持ちも分かるけど!」
アラビカからの冷たい視線を受けてショックを受けていた私がいた頃、フラウが私をフォローする形で口を開いて来た。
冷静に考えると、あんまり私をフォローしてくれている様な言い回しではなかったけれど、ナイスだフラウ!
「……そうなの?」
「そうだよ! それに、リダが魔王であってもなくても、私にとっては親友なんだよ? そう、魔王であっても!」
小首を捻って答えるアラビカに対し、フラウは更に語気を強めて答えた。
親友であると言う部分を強調する形で答えている姿は、やはり私の事をしっかり気遣っての台詞なのだなぁ……と嬉しい気持ちになるのだが、最後の部分は蛇足以外の何物でもないぞ!
しかも『魔王であっても!』と断言している所で、うんうんと自分に言い聞かせる感じの態度を芝居掛かった態度で大仰にやらないでくれませんかねぇっ⁉︎
結局、それじゃ私は学園魔王リダって事になってしまうじゃないか!
ともすれば、フラウまで私を泣かしに掛かっていると言うのだろうか?
もしそうであれば、今日はルミと一緒にソッコー学園寮に戻って、泣きながらルミへと私のぼやきを聞いて貰おう!
こんな事を胸中で考えていた時だ、
「……そうか、なるほど……うん! そうか、そう言う事だったのか」
アラビカが、何故か物凄く納得した顔になって『うんうん!』と、何回も頷いていた。
そして、キラキラした瞳になっては……ソッとフラウの両手を握り締め、
「フラウは凄いね? やっぱりこの時で上位魔導師になっちゃう天才だけある。相手が魔王と恐れられる様な凶悪な存在ですら、友達にする事が出来るなんて」
恐ろしく勘違いしているとしか他に形容する事の出来ない台詞を、臆面もなくほざいてくれた!
あああああっ! もうぅぅぅぅっ!
「フラウ……お前、爆発したいのか?」
「アラビカさん! 実はリダって正義の味方なんだよ! ここは本当! 魔王じゃなくてヒーロー!」
イライラした私が、とうとうフラウへと右手を向けた所で、フラウがようやく真面目にアラビカを説得しようとし始めていた。
最初からやっとけ……ってのっ!
「あの、さ? やっぱり私も行かないと……ダメかな?」
少し間を置いた所で、ルミの声がやって来た。
答えたルミは、幾ばくか申し訳なさそうな顔だった。
恐らく、これから行こうとしている場所へと行かないつもりだったのだろう。
まぁ、そこは分からなくもない。
私としても、断りを入れたい位だ。
アラビカが悪いと言う訳ではなく……私の中に居る誰かが、そうと私に告げているからだ。
この誘いに乗っては行けない!……と。
どうしてそうなるのかは知らない。
そもそも、根拠なんて物は最初からありもしないのだ。
けれど、間違いなく危険がある。
ここもまた、不思議な事にも確定クラスで存在してる。
どんな危険が迫っているのかすら分からない理不尽な話しなんだけどさっっ!
この複雑怪奇な思考が、私のみならずルミにも備わっている模様だ。
最後に『模様』なんぞと形容したのは他でもない。
飽くまでも可能性として、私と同じ性質を持っているのではないか?……と言う程度の所までしか判明して居なかったからだ。
よって、ルミも同じ感覚なのだろう……と、予測まではする事が可能だった。
そして、私の感覚と同じであるのなら、ルミは絶対に行きたいとは思わない筈だ。
だって、さ?
考えても見てくれよ?
理由も根拠も何もなく……ただただ、自分の中に存在する何者かが『危険だ!』と言って来るんだぞ?
この時点で不気味だとは思わないか?
こんな物、無視しても問題ないと思う反面……不安だろ?
もし本当に危険だったら……どうしよう?
こんな気持ちにならないだろうか?
そうなれば、ここでルミが取る選択肢は一つ。
「その……別に用事とかはないんだけど、今日は早く部屋に戻りたくて……」
言いながら、ルミは更に困った顔になって居た。
こう言う時ぐらい、テキトーな嘘でも言えば良い物を。
しかしながら、根が素直だったルミには、即興で嘘を吐くと言う選択肢が、最初から存在して居なかった模様だ。
こう言う時、ルミの様な性質を持つ人間は損なのかも知れないな?
「え? どうしたの、ルミ? いつもなら『え! 美味しいの食べるの! 行く! 絶対行く! 這ってでも行く!』とか言わない?」
フラウは驚いた顔になってルミへと答えた。
そして、軽くルミの声真似なんぞをしてみせる。
地味に似ていた。
……草が生えた。




