魂の追憶【13】
「……へぇ」
私の爆破シーンを軽く見据えていたトンネル君が、少しだけ興味深そうな笑みを作りながら声を吐き出す。
他方、その一方で、
「恐ろしい事をするヤツだな……」
ガドレー君がやや顔を硬らせてぼやきを口にしていた。
「凄いね、リダ先輩! やっぱり僕が望んでいた理想の女性だよ!」
程なくして、サービエ君が屈託のない笑顔を私に見せて来る……うむ、可愛いぞ!
しかしながら、三者三様の態度を見せるな?
口振りを聞いている限りだと、この三人は三兄弟であるかの様に感じるのだが……外見とかも結構違うし、余り兄弟と言う感じには見えないな。
もしかして、実の兄弟と言う訳ではないのか?
いや、特段似てない兄弟とかも居るしなぁ……なんぞと、頭を捻っていた頃、
「どうでも良いけど……リンネル君は、私のだからね?」
ワンテンポ置いてから、フラウがさり気なく私へと謎アピールをして来た。
つか、お前はなんで私に妙な対抗心を燃やしてんの?
「大丈夫だフラウ。そんなつもりは一切ない」
ソッコーで完全否定してやった。
けれど、それでもフラウの表情からは懐疑の念が消える様子はなかった。
……だから、私がお前に対抗心を燃やされる様な真似をしたのか? と、マジで言ってやりたくなるのだがっ⁉︎
やたらおかしな噛み付き方を見せるフラウはともかく。
「……私の平穏が……穏やかな学園生活がぁ……」
ルミは遠い目になってハラハラと涙を流しながら哀愁を漂わせていた。
守護霊を見る事が出来るルミからすれば、もはや生き地獄だろう。
ガドレー君だけが唯一まともな方で、他の二人は魔界から来てるんじゃないのか? と嘯きたくなるまでに暗黒チックな守護霊をしているからなぁ……そりゃ、そう思いたくもなる。
特にトンネル君は私達のクラス・メートだ。
嫌でも顔を合わせる事になってしまうだろう。
それら諸々を加味するのあれば、ルミの今後は見事に暗転してしまうに違いない。
尤も、これは私も全くの他人事と言う訳でもないと言う部分が厳しいな?
でも……まぁ、うん。
サービエ君は可愛いから許す!
この時点での私は、まだ能天気な態度を普通に取る事が出来た。
……実際問題、私達に大きな危害が加わっている訳でもなく、変哲知らずの日常と言う物が、根幹として存在していたからな?
結局……トウキは平和だったんだよ。
そして、私も平和過ぎるまでに平和なトウキと言う街に、長く居過ぎてしまったのかも知れない。
この時点で、私は既に一定の警戒心を持つ必要があった。
そして、なんらかの対策を練る必要性を頭の片隅程度には持って然るべきだったのだ。
なんでそんな事を考えたのか?
理由は簡素な物だ。
私の中にいる誰か……きっと、大昔は私をしていたのだろう遠い遠い追憶の彼方で、現在の私に対し一定の警鐘の様な物を流していたからだ。
コイツらとは関わっては行けない!
可能な限り、適当な大義名分をでっち上げてでも良いから、即刻トウキから追い出すべきだ!
……そうと、私に告げていた。
しかしながら、彼らは今の所、なんの悪事を仕出かしてはいない。
単なる交換留学生として、私達の学園へとやって来ただけに過ぎない、極々普通の学生だ。
そんな相手に、過剰な防衛反応を示すのはおかしい……そうと、私は思えたのだ。
この思考が、平和ボケから来ている甘い思考であった事実に直面するのは、ここからもう少し経っての出来事であった。
◯●●●●
「リダ・ドーンテンだな?」
翌日。
私は見知らぬ女から声を掛けられた。
何故か喧嘩腰だった。
いきなり剣呑な口調で言い寄られ、私は思わず眉間に皺を寄せてしまう。
果たして私は言った。
「いいえ、人違いでは?」
とっても爽やかに!
どうして喧嘩腰なのかは知らないし、興味もないから問い掛ける事すらないかも知れないけど……この手の連中は、一切の例外なく血の気が多い。
これ、絶対に逆恨みだろ?
そんな物を一々相手にしていたら、こっちの身体が持たないと言う物だ。
「じゃ、そう言う事で〜?」
「おい、待て! 嘘を吐くんじゃねーよ! お前以外にリダ・ドーンテンと言う名前の学生はいないんだ! そうなったら、お前が私の知るリダ・ドーンテンで間違いないんだ!」
軽くあしらう形でその場から立ち去ろうとする私がいた頃、剣呑女は私をソッコーでリダ・ドーンテンと決め付けるかの様な言い回しで叫んで来た。
まぁ……確かに私がリダ・ドーンテンで間違いはないんだけどさぁ……?
けどさぁ?
だけどさぁ?
絶対に、コイツおかしいよ?
だって、ここ……女子トイレだぞ?




