魂の追憶【9】
「え? そうなの? あはは! じゃあ、後は任せて置きなさい! しっかり学園案内しておくから!」
直後、フラウが待ってました! とばかりに無い胸を張る。
内心ではルミがその台詞を言うと期待していたのではなかろうか?
少なからず、フラウの表情を見る限りだと、顔に『私はルミの言葉を待ってました!』と書いてある様に見える。
「うん! ありがとうフラウ! あなたは、サイコーの親友だよ!」
直後、素早く話しを纏めたいが故に、口早く叫んでいるルミの姿があった。
心の底から本気で嫌な事に関しては、誰よりも真剣になって回避策を考えるルミだけに、その本気度も別格級だ。
逃げの口実を得たルミは、そのチャンスを絶対に活かすと言うばかりに素早く言い放っては、
「じゃ、後で『良い話しを』聞かせてね〜!」
然りげ無くフラウの持っている残念習性まで利用しては、しれっとナチュラルに逃げ出そうとしていた。
鮮やかな逃げっぷりだな。
本当、自分が嫌だと思っている事を他人に押し付ける時のルミは恐ろしく行動力と舌と頭が回る。
その機動力と行動力と機転を、もっと別の物に活かす事が出来ない物なのだろうか?
……っと、そんな事より、私も逃げ……もとい、自室に戻るか。
「じゃあ、私も帰るよ。また明日」
テキトーに無難な挨拶をした私は、離れるルミに乗じる形でその場から離れようとした。
……その時だった。
「あんたが噂のリダ・ドーンテンだろ?」
思わぬ所から声が転がって来た。
……?
声がした方角を見ると、そこにはやたら目付きの悪い男が立っていた。
雰囲気とかは、少しトンネル君に似てるな?
……でも、目が鋭いと言うか釣り目の切長と言うか……ともかく、眼光が鋭かった。
ともすれば、当人は特に意識的にやっている訳ではないのかも知れないが……なんとなく睨まれているかの様な? ともかく、そんな印象を抱かずにはいられない相手だ。
名前は……
「ガドレー兄さんじゃないか? 兄さんも、学園案内でここに来たのかい?」
……と答えた、トンネル君の言葉通りだ。
うむ、ガドレー君ねぇ?
取り敢えず『兄さん』と言っているんだから、私らの一個上である事は間違いない。
すると三年かな?
こんな事を考えていた時だった。
「おい、貴様! 私のリダ様に喧嘩を売るつもりかっ⁉︎ 立場を弁えるが良い!」
聴き慣れた声がやって来る。
声の主は変態勇者こと、ユニクスだ。
そう言えば、ユニクスは三年だったな?
すると、ユニクスのクラスにも交換留学生が来ていた……って事になるのか。
「あ? 立場を弁えろ?……だと? テメーこそ、俺にどんな口きいてんの? ちょっと美人だからって、イキってんじゃねーぞ? クソアマァッ!」
そして、物凄く口が悪いって事が分かった。
守護霊は……うん、言うまでもないか。
ただ、強いて言うのなら、トンネル君程ではない。
なんだかんだでガドレー君の方も、中々に大概な守護霊をしているのだが、色合い的にはまだマシと言える。
普通の視点で考えるのであれば、十二分に黒い方だけどさ……。
逆に言うと、トンネル君の黒さが異常と言える。
こんなドス黒い守護霊を、あたしゃ初めて見たよ……割りとマジで。
「クソアマだとっ⁉︎ せめてクソ野郎と言え! 私はこの学園を卒業したら、女性である事も同時に卒業予定なのだ!」
いや、女を卒業するんじゃないよ!
冗談めいた台詞だが、かなり真剣な顔で叫ぶユニクス。
きっと本気なんだろう。
一応、コイツは男にもなれるからなぁ……冗談で言っているとは到底思えない。
そして、私の貞操が危険で過ぎるのだが?
………。
コイツが男になった時は、ユニクスの半径数メートル以内に近付かない様にして置こうか!
「うるせぇよ! テメーが男だろうが女だろうが関係ねーんだよ! クソムカつくのが許せねぇっ! ってんだろ? 死ねよ! クソが!」
他方、ガドレー君はユニクスの言葉に思い切り触発される形で、額に血管を浮かび上がらせる形で怒鳴り返していた。
もはやドキュンなのですが?
「やめなよ兄さん……僕のクラスメート達が怖がってるから」
程なくして、トンネル君が笑みのままガドレー君へと声を向ける。
「あ? んな事、知るかよ! このクッソ女が俺に喧嘩を売って来たのが悪いんだからよぉっ⁉︎」
しかし、ドキュンの鏡みたいな態度を取るガドレー君が怒りの矛を収める様子は欠片も見当たらなかった。
……と、思っていた時だ。
「……兄さん? 僕を困らせないでくれないかな? それとも、単純に怒らせたいだけ?」
……っ⁉︎
トンネル君の目付きが変わった。
瞬時に、強烈な威嚇……いや、エナジーか?
ともかく、一瞬だけトンネル君のエナジーが爆発的に上昇したのだ!




