魂の追憶【5】
そんな所にやって来るメリットなんてあるのだろうか?
ふと、こんな事を考える私がいたが……やめた。
交換留学によるメリットやデメリットについて考えるのは、私の仕事ではない。
この学校を運営している連中が悩む事柄だ。
何より、交換留学生が来たからと言って、私の生活に何か変化が訪れるとは思えない。
飽くまでも第三者の目で『へぇ〜』って言っている程度の話しだ。
それならそれで、短期間だけのクラスメートとして、無難に接して行けば良いだけの話し。
それ以上でも以下でもない。
強いて言うのであれば、フラウが余計な暴走とかしなければ良いんだけど。
……と、そこまで考えていた頃、
「あ、珍しいねぇ、リダ! ガッコーが終わったのに、まだ教室にいるなんて」
教室の入り口……ちょうど廊下と教室の境目辺りの所からルミの声が聞こえた。
「いや、待てよルミ? まだ放課後が始まって五分程度しか経ってないぞ? その程度ならまだ教室に居てもおかしな話しではないだろう?」
「そうかなぁ? リダの場合、放課後が終わったら三秒以内に教室から廊下に出ているイメージだよ。その後に数秒遅れてアリンちゃんと、ウチの娘が一緒に教室から廊下にロケット・ダッシュしている感じ?」
ルミは少し考える仕草をみせながらも言う。
私に対してのイメージが何処まで酷い代物であるのかは分かった。
但し、アリンとルゥ姫に関しては全くその通りと言える。
現に、アリンとルゥ姫の二人は、既に忽然と姿を消していた。
授業終了のベルと同時に、起立して礼して着席せずにバックを取ると、授業を終えて退出する先生よりも早く廊下に出ている始末。
お前らは、どんだけ早く帰宅したいんだよ!
私も結構な割合で同じ事をしているけど!
………。
話しを戻そう。
「そう言えば、ルミは交換留学生とか言うのが来るのを知ってるか?」
ちょっと反論出来そうにないと思った私は、今話題となっている交換留学生についての話しを振ってみた。
すると、ルミは少し考える様な仕草で、
「ああ、そこなんだけどさぁ? 今回来る人? トンネル君だっけ?」
私のフラウの二人へと声を向けると、
「リンネル君ね!」
フラウがソッコーでツッコミを入れた。
「なるほど、トンネル君か。それなら私も覚えられそうだ!」
他方の私は、ルミの言葉に親指を立てていた。
「私のリンネル君に変なあだ名を付けないで!」
いつから、お前のになったのかな? フラウさんよ?
毎度お馴染みの思い込みも、とうとう行き着く所まで行き着いてしまった気がする。
そろそろ精神外科の診察券でも作った方が良いのではなかろうか?
「んで、トンネル君がどうかしたのか?」
「リンネル君!」
それとなくルミへと尋ねた直後、フラウが憤然とした面持ちで私へと喰って掛かる。
もう、どっちでも良いじゃないか。
リンネルだろうが、トンネルだろうが。
「……ああ、そうそう。そのトンネル君なんだけど? なんかねぇ? ニイガ王家の王族と知り合いが多いんだってさ? んで、その繋がりで私が学園の案内をしてくれないか? って、リーナ先生に頼まれちゃってさぁ……」
ルミは肩を落として答える。
「え? トンネル君を?」
直後、フラウはルミの言葉にキョトンとした顔になって声を返す。
お前もトンネル君になってるぞ?
「うん、そうなんだよ……ほら、私って人見知りが酷いじゃない? しかも、相手は男だし……なんか、二人っきりとかになったら気不味いって言うか、会話が続かなそうで不安なんだよねぇ……」
ルミは顔でも困った表情を作って答えていた。
刹那、フラウがルミの手をガッチリと握り締める。
「大丈夫だよルミ! その時は、私も一緒に行って上げる!」
そうと断言していたフラウは、実に光輝いていた。
まさに、私の時代が来た! って顔になっていた。
「え! ほ、本当! そうしてくれると、凄く助かる!」
ルミはホッと安堵する感じの声をフラウへと吐き出す。
「もちろん、当然じゃない! だって、私達……親友でしょっ!」
友情よりも恋情を選ぶ奴は、しれっと友愛を語っていた。
一体どの口が言ってるんだ? と、即座に叫んでやりたい。
「もちろん、リダも一緒だよね? だって、私とリダも親友だもん!」
……はぁ?
程なくして、クルッ! っと私の方向を向いてから答えるルミ。
なんでそんな面倒な事を、私もやらないと行けないの?
「いや、私はほら……色々と忙しいから」
「ほうほう、じゃあ具体的にどんな感じで忙しいの? 学校帰って、アリンちゃんは私の部屋にやって来て、育児放棄同然で? 家事も最近はアリンちゃんが半分担当してて? 帰宅すると動画に齧り付いていて? んで、忙しい? へぇ? 何処に忙しい要素があるのかな?」
………。
ルミは笑みを混じらせながらも、私ににじり寄って答えていた。
笑っている……と言う形容をしているが、当たり前の当然の様に目は笑っていなかった。
むしろ怖かった。
……どうしてルミは、そこまで無駄に凄味の効かせる態度を作る事が出来るのかな?




