上位魔導師のお仕事【24】
私の中で、どうにも解けない謎が渦を巻いていた頃、
「私の妻がやった事は、夫である僕の責任でもあります! 罰を与えるのであれば、僕にお与え下さい!」
呆気に取られてしまう様な台詞を、感情的に口から放出するアレフの姿があった。
「……は?」
私は目がテンになってしまう。
ミィクが、支部長の妻?
どうなってるんだ? これは?
いきなりの急展開に頭がついて行けない私。
そして、近くにいたフラウが石化していた。
きっと、玉の輿を狙っていたからであろう。
今回も分かり易いまでの打算性を露骨に見せていたからな。
尤も、フラウの皮算用は、今に始まった事ではないし、性懲りもなく今後もやってしまうのだろう。
イケメンと見るや否や、猪の如く突っ走る面食い女だからな?
これで自分は人見知りのシャイ・ガールを自称するのだから質が悪い。
……と、さて。
いつも通り、フラウの独り相撲が無事に撃沈した所で、話しを戻そうか?
「まずは、事の真相を聞いても良いか?」
これまでロックオンしていた右手を戻し、私は二人へと問い掛ける。
すると、呆然自失状態で口を動かす事すらままならないと言ったミィナの代弁をする形で、アレフ支部長が素早く声を返して来た。
この話は少し長くなってしまう……と言うか? 途中でルミが無駄に会話の中へと入って来ては、あちゃらかな横槍をふんだんに入れ捲って来たので、その様なおふざけ部分をカットした上でお伝えしよう。
支部長の話しは、今から少し前に開催された魔導師の世界大会から始まっていた。
大会二連覇を狙うミィクは、この大会でも優勝を狙おうと躍起になっていたのだと言う。
実際、ミィクの実力は二連覇を狙うに十分値するレベルだったらしく、無難かつ順当に進んで行けば、今回の大会もトウキ代表が世界一の座を防衛する事になる……筈だった。
所が、今回の結果はニイガが優勝している。
つまるに、トウキは決勝でニイガ代表の魔導師によって惜しくも敗北を喫してしまうのだ。
……と、これが表向きの話しらしい。
この表現をすると『じゃあ、何か裏でもあったの?』って話しになる。
残念ながらその通りだった。
率直に言おう。
今回の大会……決勝戦に限って言うのなら、完全なる八百長だったのだ。
……そう。
ミィクは、ニイガ代表と裏取引をし……一定の賄賂を受け取って、わざと大会で負けていたのだ!
これは許し難い蛮行と言える。
ミィクは曲がりなりのもトウキ国の看板を背負って戦う、魔導師の代表選手だ。
それを、裏でお金を貰い……既に勝敗の決まっている出来レースを演じていたと言う事になる。
私的には『恥を知れ!』と言いたいね!
ただ、この件に関しては、ミィクも存分に反省しているらしい。
今後は一切八百長には手を出さないと誓っていると言う。
正直に言うのなら、なんらかの罰を受けるべきだと考える私がいるのだが……今回に限っては、特別に見逃してやろうかと思う。
ミィクを見る限り、心から後悔している模様でもあったし、絶対にやりません! と私に大きく誓っていた。
この言葉に嘘があるとは思えない。
そして、仮に嘘であった時は、改めてその罪の深さを思い知らせてやろう。
よって、今回だけ不問とする形で、話しは纏まった。
……が、問題はそれだけでは終わらない。
むしろ、今回の本題的に言うのなら、話しはこれからだ。
八百長として、試合に負けた後……約束の金を貰おうとした所、思い切りシラを切られたらしい。
え? 八百長って何? ウチは実力であなたに勝ったのですが?……的な事を言われたのだ。
極論からして、ミィナは完全に騙された。
残念なのは、これが口約束であった事。
下手に契約書の様な物を作ってしまうと、後にその契約書が第三者の目に止まる事で、今回の八百長劇がバレてしまう危険性もあった為、敢えて書面に残る様な行為を一切行わなかったのだ。
この、慎重な行動が仇となり、ミィナは完全に詐欺られる羽目になってしまう。
まして、八百長騒ぎの当事者でもあるミィナも、強く出る訳には行かない。
言えば、間違いなく自分自身も贈賄容疑で御用となってしまう案件であったからだ。
結果、ミィナ達は泣き寝入りしか、他に選択肢がなく……優勝トロフィーもニイガにある魔導師協会・本部へと返納する憂き目に遭ってしまうのであった。
しかしながら、その時に起こったのが、この『トロフィー盗難事件』である。
何者かによってトロフィーが盗まれてしまい、ニイガへと返納する事が出来ないと言う、緊急事態に陥ってしまった。
……と言う、自演を行ったのが、今回の騒動の真相であった。
気持ちは分かるが、なんともお騒がせな話しと言えた。




