上位魔導師のお仕事【23】
『それに、契約であるのであれば、お前と我が交わした契約の方が『序列では上』だ。契約が重なった場合、より序列の高い相手との契約を優先するのは当然の事……と言う事で、我は失礼する』
「なるほど、じゃあ、上位の契約者として言おう。私とたたか……」
シュゥゥゥゥンッッ……。
私の言葉が言い終わるよりも早く、アグニは魔法陣の中へと入って行った。
……あんにゃろう……逃げやがったな。
「流石はリダだね! 炎神様ですら、リダとは戦いたくないんだもの」
直後、未だ背中に張り付いているルミが、陽気な声音で私へと語った。
「う、うるさいなぁ……アグニは私と友達だったから、戦いたくなかったんだよ」
「そうかなぁ?……どちらかと言うと、リダの様な魔王すらも裸足で逃げ出すモンスターと戦うぐらいなら、契約とか無視して逃げた方がマシ……ああ、うんうん! そうだよねぇ〜? リダは色々な人と友達関係にあるし、リダも友達を大切にするからね? その気持ちが届いたんだよね!」
ルミは朗らかな笑みで私へと答えた。
ちゃんと分かっているではないか。
ちょっと背中へと右手を向けてやったりもしたのだが、その行為は関係ない。
しっかりとルミは私の気持ちを汲み取ってくれたのだ。
やはり、親友は違うな!
……と、さて。
「……で? さっきのがワイルド・カードとか吐かしてたな?」
炎神が(逃げる様に)去った後、私はゆっくりとミィナへと近付く。
「……あわわわぁ……っっ!」
ミィナは、顔面蒼白のままガタガタと震えていた。
今時『あわわわぁ!』なんて台詞を使う奴がいたんだな。
私的には、そっちに驚いたぞ?
実は私も使うんだけど、そこは内緒だ!
完全にへたり込んでしまったミィナは、早くも万策尽きてしまった模様だ。
ともすれば、まだまだ余力を残してはいるのかも知れないが……私に通じる技や魔法があるのかと言えば、絶無と形容しても過言ではないだろう。
少なからず、絶望的な顔を露骨に見せながらも、瞳から涙を流している姿からは、現状をひっくり返す逆転技を持っている様には見えない。
……ま、私としてはコイツの技も見てみたかったのだがな?
そちら方は、機会があった時にでも見せて貰おうか?
「じゃあ、トロフィーを返して貰おうか?」
私は言う。
……右手をミィナの前に向けて。
「………」
ミィナは無言だった。
もはや絶句と言っても良い。
てか、ちょっとヤバいかな?
なんと言うか、完全に追い込まれてしまい、頭が思考停止状態になっている様な気がする。
下手にパニクられても困ると言えば困るが、困窮しまくって思考停止されても困ると言えば困る。
やれやれ、どうした物かな。
「なんだ? 何も言わないのか? 黙りを続ければ、私が何もしないとでも?」
仕方ないので、一発爆破してやろうか?
思い、右手に魔力を込めた……その時であった。
「待って下さいっ!」
突然、予想外の所から、予期せぬ声が転がって来た。
声の主は……支部長?
「……どうなってるんだ?」
私は眉を顰めた。
支部長が、この屋敷の何処かにいる事は、私なりに予想はしていた。
但し、この屋敷に幽閉されている……と言う意味で。
さっき、ドアノブを左回しにした時に、地下牢へと繋がっていたからな?
てっきり、その地下牢辺りで監禁されている物かと思っていたぞ。
所がそうではなかったらしい。
素早く私達の前にやって来たアレフ支部長は、ミィナの前にやって来ると、彼女を庇う様にして抱きかかえてみせた。
……?
いよいよ、訳が分からない。
魔導師ミィナは、トウキ支部にあるトロフィーを盗んだ犯人ではなかったのか?
現状で、ミィナがどうしてトロフィーを盗んでいたのかは知らないが……私達を欺いて、こんな屋敷風味のダンジョンへと誘導した挙句、私達を亡き者にしようと企んでいた様に思える。
少なからず炎神まで使って来たのだ。
偶然私はアグニと仲良しだったから、特に何も起こらなかったが……時と場合によっては、ここで大激戦が繰り広げられる事になったかも知れない。
もちろん、場合によっては命を落としていた危険性だってあったのだ。
それらを総合的に踏まえると、ミィナに殺意がなかったとは言わせない。
ただ、私の予測が一つだけ外れていた事がある。
支部長アレフの存在だ。
ミィナは支部長に成り済まし、私達をミィナの自宅と偽り、この屋敷タイプのダンジョンへと案内した。
この時点で、本物のアレフはミィナに拉致られ、監禁でもされているのかと思われたのだが……どうやら違ったらしい。
理由は言うまでもないな?
普通にミィナの前にいるからだ。
何より、ミィナを庇っている時点で、アレフ支部長の行動は矛盾しかないだろう。
これは一体、どう言う事なのか?
私の中にある謎は深まる一方だった。




