上位魔導師のお仕事【22】
ここに関しては、少し説明が必要になるな?
ミィナが床に生み出した魔法陣……これは、一定の相手と能力の一部を借し与えると言う契約をした上で発動する事が可能となる魔法だ。
契約の相手は多岐に渡って存在するのだが、一般的には神か天使か悪魔辺りが契約相手となる場合が多い。
契約の内容も千差万別。
契約相手の能力をほんの少しだけ拝借する程度の物から、完全に100%の力を貸して貰う物まで、まさにピンキリと言えた。
そして、能力を100%貸して貰うと言う契約を結んだ場合……それは『召喚魔法』へと化ける。
完全に力を貸し与えると言う事になる為、契約した張本人が魔法陣から出現する仕組みになっているのだ。
100%力を貸し与える場合の魔法陣は、形が他の加護魔法とは少し文字配列が違う。
もっと言うのなら、描かれた魔法陣の大きさも、一回り程度大きくなっていたりもするのだ。
故に、特殊魔法陣と呼ばれている。
果たして、ミィナが描いたのは、この特殊魔法陣であった。
真っ赤な色彩を持つ特殊魔法陣は……間も無く、燃え盛る火炎を彷彿させるだろう、豪快な炎系の魔力が放出されていた。
……地味に危険な召喚だなぁ……おい。
ルミやフラウの場合、学生ながらも高度な魔法を使い熟す、魔導師のエキスパート的な側面があったから、咄嗟に魔導防壁を張ってその場を凌いでいたが……初歩的な魔法しか使えない、魔導の素人が近くにいたら、魔法陣から放出される炎系魔力の余波だけで大火傷を負ってしまい兼ねない状況であった。
「あははははっ! 悪いけど、いきなりワイルド・カードを切らせて貰ったよ? リダ・ドーンテン会長? 流石のあなたも、炎神には逆らえないでしょう? 所詮は人の子ですもの?……さぁ、私に平伏しなさい? あなたの態度と私の気分次第では、生きてここから出られるかも知れないからねぇ……?」
ミィナは勝ち誇った顔で、高飛車に笑いながらも私達へと叫んでいた。
そんな時だった。
「……この魔力……もしかして……?」
フラウがちょっとだけ驚いた顔になる。
……ふむ、どうやらフラウは即座に気付いたか。
フラウが直ぐ気付くのは当然と言える。
ミィナが特殊魔法陣を使って、召喚していたのは……フラウが良く使っている攻撃魔法の素となっている炎神……アグニであったからだ。
シュバァァッッ!
少しの間を置き、溢れんばかりの熱量を帯びた炎の塊りの様なオーラを身に纏った存在……炎神アグニが特殊魔法陣から姿を現す。
そして、答えた。
『おや? リダではないか? こんな所で何をしているのだ? 釣りか?』
どうして、そ〜ゆ〜答えになるのかな? と言いたくなる様な台詞を。
答えたのは、特殊魔法陣から姿を現した炎神本人。
この口振りから分かってくれるかも知れないが……炎神は、私にとって友達だ。
このリダ本編でも、かなり序盤ではあったが、一度ばかり登場もしている。
その時に、フラウへと炎神の加護を与え……アグニ系の魔法を操る事が可能になる新生・フラウが誕生しているのだ。
「なんで釣りに来たと思っているんだ? ここに、入れ食いする様な爆釣ゾーンでもあると言うのかよ?」
『ああ、そうらしいぞ? なんでも、この先にある川がそうらしい』
冗談半分に尋ねた皮肉に対し、アグニは至って大真面目に答えていた。
本当にそんなのがあったのね……普通に知らなかったよ。
「生憎、釣りに来た訳じゃない。ここには、ちょっと野暮用で来た。お前を召喚した奴に用事があったんでな?」
『……ほう、そう言う事か』
方を竦め、やや嘯く感じで口を開く私に、アグニは納得する形で相づちを打って来た。
そこから、アグニはゆっくりと右手を『スチャ!』っと、自分の額当たりに当て、
『では、我は帰ろう』
いや、帰るなよ!
一応、契約の元、ここに召喚されたんだろう?
それなら、契約を守れよ!
「いきなり帰ろうとするな! お前だって、ここに召喚されたと言う事は、もう分かってるんだろう? 召喚者との契約に従い、ちゃんと力を貸してやれよ! 可哀想だろ?」
『可哀想な物か……むしろ、我の方が可哀想だとは思わないのか? よりによってリダ・ドーンテンが相手なんだぞ? 我に戦いを挑んで来た頃のお前ですら強敵だと思っていたと言うのに……更に腕を磨き、もはや最高神ですらお前の力には一目を置いているのだ。凡百の魔王程度であるのなら、お前を見た瞬間に裸足で逃げ出すであろう……魔王ではないが、我もその一人だ!』
ズバッと公言して来たよ! この炎神様っ⁉︎
しれっとヘタレ文句を……しかも、地味に威厳のある態度と語り口調でのたまうアグニの背中には、広く広大な大草原が浮かんでいる様に見えた。
いや、もう……草しか生えないのだが?




