上位魔導師のお仕事【21】
素朴なルミの言葉は……さて置き。
「もう良いだろう? さっさと正体を現すのだな? 魔導師・ミィク」
「……仕方ありませんね……本当は、もう少し戯れてからにしようかと思っていたと言うのに……お遊びもここまでと言う事でしょうか」
支部長……いや、魔導師ミィクはうっすらを笑みを作りながらも私の言葉に返答し、
シュゥゥゥゥゥンッッッ……
その姿を変えて行く。
これまで美形の青年をしていた姿が一気に変わり……やたらボディ・ラインを強調する、暗黒色の強い格好をした女性魔導師へと変貌を遂げた。
なんて言うか、悪の秘密結社に出て来そうな格好だなぁ……おい。
一言で言うと、女幹部? そんな感じ。
ハッキリ言って悪趣味と言うか、なんと言うか。
こんなのは、ヒーローがいるからこそ、絵面的にどうにか様になっているレベルであって、実際にヒーローでもない私達の前で臆面もなくやられると、単なる露出狂か、自分のボディ・ラインに自信のあるコスプレイヤーにしか見えないのだが?
どちらにせよ、変な格好をしている。
「……それ、素でやっているのか?」
私は目をテンにして尋ねた。
「何? 私のファッション・センスに文句でも? 好きでやっているんだから、気にしないでくれる?」
ああ、やっぱり好んでそんな格好をしているんだな?
相手が男であった場合、興奮対象になるかも知れないが……現状で、お前の前にいるのは全員女だぞ?
もちろん、百合思考を持っている……とか言うオチだってないのだ。
「まぁ、別に構わないけどさ? けれど、私達に対して自分のプロポーションを際立たせる様な格好をした所で、なんのメリットもないぞ? 単におかしな格好をしている、頭のおかしなヤツって程度の感慨しか湧かない」
「何でよ! この格好、格好良いでしょう! 美しくも洗練されたデザインでしょう⁉︎ どうして分かってくれないの?……あ、分かった! アンタ達の様な小娘には出来ない格好だから僻んでるんでしょう?……ふふ、そうね? ごめんなさい? ほら、私ってさ? あなたの様に胸元とかスッキリして……」
ドォォォォォォォォンッッッ!
魔女は吹き飛んだ。
なんか妙な事を口走っていた様な気がしたんだけど……私の鼓膜に届く事はなかった。
「はわぎゃっ!」
突発的に爆発したミィナは勢い良く吹き飛んでは、
ドカァァッッ!
近くの壁にぶつかっていた。
「な、なんなの?……これ?」
少し間を置いてから、ミィナは身体をワナワナと震わせながらも驚きの声を上げる。
別に大した事じゃないだろう?
お前が貧乳を馬鹿にしたからだ!
「一つ、良い事を教えてやろう……お前が魔導師の世界大会でトップクラスの魔導師であるのなら、私は世界最強の冒険者だ? 所詮、一つの職業組合に過ぎない、魔導師達の代表ではなく……全てを統括した総合的な意味で、世界最強の座にいるのが私……リダ・ドーンテンなんだよ?」
「……っ! まさか……そんなっ⁉︎」
爆破にとって、煤まみれのまま尻餅をついていたミィナの前に悠然と歩きつつも口を開いた私に、ミィナはハッ! っと息を飲む。
ただ、ミィナもある程度までは予想していたのだろう。
純然たる驚きよりも、その表情には『やっぱり』と言う感じのニュアンスが込められていたからだ。
……てか、私もちょっと口が軽かったか?
ここで無作為に自分の素性をバラす必要性はなかったからな?
……ま、言った所で困る事もあるまい。
そんな事よりも、だ?
「さて、それじゃあ……手っ取り早く要件を言おう? お前が盗んだトロフィーを返して貰おうか?……ああ、それとアレフ支部長も、だな?」
依然として尻餅をついたままであったミィナの眼前にやって来た私は、シニカルな笑みを浮かべて声を吐き出していた。
私的には、ハードボイルドな雰囲気を冷淡に醸し出しての物言いだったが……いかんせん、ルミが背中で子なき妖怪と化していた為、絵面的にはちっとも決まらなかった。
つか、良い加減離れろや! ルミィィィィィッッッッ⁉︎
「……もう勝った気でいるの?」
直後、ミィナはニヤリと笑みを作った。
地味に悪どい顔だった。
どう考えても、何か画策している……と、顔に書いてあるレベルだった。
次の瞬間、
ポゥゥゥゥッッッ!
床に魔法陣が浮かぶ。
……これは、加護を得る為に使われる特殊魔法陣か?
紅蓮の炎を連想させる、真っ赤な魔法陣が床に描かれた瞬間に悟った。
この魔法は一定の契約から発生した加護を得る名目で作られた『召喚魔法』であると。




