上位魔導師のお仕事【20】
「……なるほど、そう来ましたか」
アレフ支部長は、私の言葉に軽く声を返す。
肯定をしていた訳ではないが、否定の言葉も口にしなかった。
「この屋敷について、かなり詳しいのは、私も否定はしないよ? やはり的確にナビをしてくれているからな?……だけど、それならどうして最初に言わない? ここがダンジョンであると言う事実を? 普通は最初に言っておくべきではなかったのか?」
「答えは単純な物です。僕もここがダンジョンであると言う事を知らなかったのですよ……ミィクは、変わり種な所もあったのすが、まさかダンジョンを自宅にしているとは思いませんでしたよ」
アレフ支部長は苦笑いのまま、私へと答えた。
……ほう?
まだ、惚ける……と?
「次に、二つ目だ? アレフ支部長? あなたはどうして『一階を勧めた』んだ? あの時点では二階も選択肢としてあったんじゃないのか?」
「二階には用事がないと思っていたからですよ……ここがダンジョンであると言う事は知りませんでしたが、ミィクが居るのは一階だと考えておりましたからね?」
「そうか? その割には、一階を強く勧めていなかったか? 頑なに拒否とまでは行かないまでも……確実に『二階に行くな』と言う語り口調だったよな? それはどうしてだ?」
「僕も知りませんよ……単純にミィクが『行かないで欲しい』と言っていたのを、素直に守っていただけです。だから行かなかった」
「……なるほど? じゃあ、二階は本格的なダンジョンになっていたとしても……お前はまだシラを切れるのかな?」
私はニィ……と、笑みを強めて答える。
もう、ネタは上がっているんだ。
いい加減、シラを切るのはやめてくれないか?
支部長アレフ……否、違う。
「トウキの魔女殿? そろそろ、苦しくなって来たのではないのかな?」
「……っ⁉︎」
悠然と語る私の言葉を耳にした瞬間、アレフ支部長の顔が大きく変わった。
そこから、私は追い討ちを掛ける形で口を動かし続ける。
「そもそも、ダンジョンに住んでいる時点で不自然だとは思わないか? 如何に変わり者が多いとされる魔導師であっても、街外れの森に囲まれた屋敷タイプのダンジョンに好きこのんで住むヤツは稀だぞ? 可能性として全く居ないと言う訳ではないが……飽くまでもゼロではないと言うだけの話しで、一般的にはそんな奇妙奇天烈な場所に住むヤツなんて、御伽噺か、自分がダンジョン・マスターかのどちらかだろう? 違わないか?」
つまるに、ここは魔導師ミィナの住処『ではない』のだ。
単純に純粋に、屋敷の姿をしたダンジョン。
極論からすれば、だ?
「アンタは、私達をこの屋敷に『誘い込んだ』と言う訳だ? 支部長アレフの姿をして……な?」
「………」
アレフ支部長は何も言わない。
「……ど、どう言う事?」
他方、フラウは微妙に焦っていた。
きっと寝耳に水であったのだろう。
同時にアレフ支部長から、パッ! っと離れてみせた。
相手が女だと分かった瞬間、一気に離れていた。
なんて分かり易い態度を取るんだろうね? この面食い女わっ⁉︎
しばらくして。
「……いつ、気付きました?」
妖艶な笑みを作りながらも、アレフ支部長は答える。
うむ、ようやくシラを切り通せないと実感したか。
「そのドアを開けてくれ……と言われた辺りかな? あと、この通路に入ってから以降、トラップが極端に減っていた……と言うか、ゼロだ。これは『トラップが効かない』と言う事実を『近くで見ていた』からこそ出来る芸当だと思えたんだよ? 近くにいたからこそ、トラップなんてやっても無駄と考え、サッサと仕舞った。こんな柔軟な行動が迅速に行えるとして、最も可能性が高いのはパーティー付近にトラップを作った張本人がいる……そう考えた訳だな?」
んで、その考えは見事に当たっていた。
そこから少し間を置く形で、ルミが思い付いたかの様な顔になって言う。
「……ああ、そう言えばさ、リダ? この人の守護霊って、アレフ支部長の守護霊と少し違うね? なんて言うか……微妙に黒味掛かっている感じがしない?」
……言われて見れば違うな?
初めてアレフ支部長と顔を合わせた時にあった支部長の守護霊は、綺麗なまでに真っ白だった。
他方……今の支部長が私達に見せる守護霊は、微妙に黒味掛かっている。
なんて事だ。
答えは、こんなにも単純に見分けが付いていたではないか!
今更ながら、もっと簡単な部分で、アレフ支部長が別人であった事実を知る事が出来た私がいる。
……うむ!
まぁ、そんな時もある!
私は深く考えない事にした!




