上位魔導師のお仕事【19】
「それより、ルミ? いい加減私の背中にしがみ付くのを止めにしないか? マジで邪魔でしかないのだが?」
「ええっ! こ、これでも……私、ダイエットしてるんだよっ⁉︎ 体重は軽くなって来ているんだからねっ⁉︎」
いや、そう言う意味ではなく。
そう言えば、最近になってルゥ姫が失笑半分に言ってたなぁ……『ウチの怠惰な母が、珍しく本気になって痩せようとしている見たいです』と。
そして、間もなく『どうせ三日坊主でしょうけどね?』と、笑いながら答えてた。
恐らく三日坊主だろう。
だって、ルミのプロポーションはモデル並だもの。
ダイエットとか言う庶民の風潮とは無縁のお姫様だもの。
ああ……くそっ!
やっぱり、血統と言うのが物を言っていると言う事なのだろうかっ!
「別に、重い軽いの問題じゃない……純粋に単純にウザいだけだ」
「もっと酷い事をサラッとぉっ⁉︎」
私の言葉に、ルミは『ガーンッ!』って顔になって、大きくショックを受けていた。
ああ、もうっ!
話しが全然進まないっ!
「取り敢えず、その話しは置いとけ!……それよりも、だ?」
私は後ろに居る支部長へと視線を向ける。
その場の雰囲気を利用して、ちゃっかりフラウが支部長の右腕に自分の両腕を絡めていたが……ま、そこはどうでも良い!
ついでに言うと、その行為自体が、ある意味で無意味かつ仇となりそうだったからな!
何故にこんな事を考えたのか?
恐らく……否、間違いない。
「そろそろ、茶番を終わりにしないか?……アレフ支部長?」
私はゆっくりと支部長の前にやって来ては、ニィ……っと笑みを漏らして答える。
シニカルな笑みを冷淡に浮かべる私は、毅然とした態度と形容しても良いまでにクールな姿を見せていた。
背中にしがみ付くルミを背負っていなかったのなら、絵面的にもシリアスなシーンになったであろう。
ルミさえ居なければっ!
「いきなり何を言い出すのですか? リダさん? 僕が一体、どんな茶番をあなたに見せていたと言うのです?」
支部長は、やや不思議そうな顔になって私へと答えた。
「そうだよ、リダ! アレフ支部長は私達の道案内をしてくれているだけじゃないの!」
程なくして、支部長にまとわり付いているフラウもまた、口早に反論した。
「確かに? 支部長は犯人であるミィクの場所を『的確に』私達へと教えている……ここが『そもそもおかしい』んだよ?」
私は淡々と語る。
支部長はピクッ! っと、眉を寄せた。
「……どうしておかしいのですか? ミィクは、我がトウキ支部の魔導師ですよ? 私も、この屋敷には幾度か訪れているのです。ミィクの私室がどこにあるのか程度は十分に知っていると思うのですが?」
「じゃあ、この屋敷がダンジョンであると言う事を、どうして黙っていたのかな?」
「……? ダンジョン?」
私の言葉に、支部長は驚いたかの様な顔になる。
……? もしかして、素で知らなかったのか?
いや、それは可能性からして低い。
そもそも、これは鎌掛けもある。
現状、私もこの屋敷が完全にダンジョンであると断定している訳ではないのだ。
強いて言うのなら、次に支部長が述べたナビ……眼前にあるドアノブを『右に回して』開くと、ここがダンジョンであるかどうかが、より鮮明になる。
思った私は、
「じゃあ、それを証明してやるよ」
支部長が『右に回して開けろ』と言っていたドアノブに手を掛け……『左に回して』みせた。
「……っ⁉︎」
支部長はハッと息を呑んだ。
ドアを開けた先にあったのは……地下牢の様な場所だった。
うむ、間違いない……『地下』だ。
バタンッ!
そこから、私は一旦ドアを閉める。
そして、今後はドアノブを右に回してから、ドアを開けた。
開けた先にあったのは……誰かの寝室と思われる部屋であった。
「……え?」
ルミは思わず目を丸くする。
私の背中にべったりくっ付いていた為、よりわかり易く部屋が変わった事実に気付いた。
「屋敷が外見よりも広くなる……って言うのは、空間魔法なんかでも可能だから、ここがダンジョンであると言う証明には結び付かない……が、ドアノブの捻り方が違うだけで、別の部屋へとワープしている様な代物は、根本的にダンジョンぐらいでしかあり得ないんだよ?」
ゆっくりと笑みを作りながらも、私は支部長へと答えた。
一応、ドアを媒体にして、空間転移を可能とする魔法がない訳でもないが……私が知る限りで、それを可能にしているのはアリンぐらいな物だ。
現時点での魔導学では、人間が空間転移を使う事は禁忌とされているからな?
可能になるとすれば……この世界にある秩序を完全に無視したエリア……つまり、ダンジョンだけだ!




