リダさん、裏山探検に向かう【14】
「なぁ、ナンシーちゃんよ?」
「......いや、だからせめてアナンシと呼んでくれません?」
ナンシーちゃんは、地味に嫌そうな顔になる。
単なる愛称なんだから、そこまで嫌そうな顔しなくても良いのに。
「アンタの強さはもう、十分な位にはなってると思うぞ?」
「......でも、初戦でいきなりやられたのですよ?」
アナンシはジト目で私を見た。
ああ、これが初戦だったのか。
もしそうであれば、ちゃんとした実力があったとしても、自分が強くなったと言う実感が沸かないかも知れない。
むしろ、そこまで変わらないと勘違いしてしまいかねない。
うむ、仕方ないな。
「大丈夫だナンシーちゃん。アンタ十分強くなってるよ」
まぁ、前の状態は知らないけど、下級精霊だったとするのなら確実に今の能力は超過しているな。
「......本当ですか? それと、私はアナンシ」
「本物だ、ナンシーちゃん」
「いや、どうでも良いですけど、いい加減に私の事はアナンシと呼んでくれないですかねぇ?」
アナンシは苦い顔になっていた。
どうやら、どうにも自信が持てない模様だ。
......ふむぅ。
「じゃあ、試しに他のメンバーと軽く戦って見ると分かるかも知れない? くれぐれも手加減してくれよ?」
「......手加減ですか? そこまでしなくても大丈夫だとは思うのですが......そして、私はアナンシです」
アナンシは、半分懐疑の目を見せつつも、私の言う通りに他のメンバーと戦って見る。
結果、誰もアナンシに勝てるヤツは居なかった。
「......化物過ぎるでしょ、ナンシーちゃん」
ルミは四つん這いになって半べそになっていた。
「うん、これはちょっと......厳しいかも」
フラウも額に汗を流しつつ、へたり込んでいた。
「......リダが特殊なだけだと言う事実が露呈したな」
完全にあぐらを掻いていたパラスは、肩で息を吸いながらも苦々しい顔になっていた。
私が特殊だと言うのは余計だったが。
「これで分かっただろう、ナンシーちゃん? アンタはもう、生徒がバカにしてくる様なレベルじゃない。十分ダンジョンのラスボスとしてやって行けるレベルだ」
「なるほど......貴女が言ってる事の意味は分かりました。それと私はナンシーではないです」
アナンシはとことんナンシーと呼ばれるのは気に入らないらしい。
もういい加減、普通に呼ぶか?
「ふふふ......これで、遂に私の悲願であった冒険者でもないクセに冒険者みたいな面してる憎たらしいガキどもをボコボコにしてやれる! 次だ......次こそは、連中を八つ裂きにっ!」
ガンッ!
かなり興奮してる感じで鼻息荒く叫んでいたアナンシに、私はゲンコツを落とした。
いや、気持ちは分からなくもないんだけどさ?
「お前はバカか? 一応、ちゃんと給料貰ってるんだろ? 学園から! それなら、ちゃんと生徒の面倒を見てやれよっ! そもそもガキとかほざいてるが、ここで自分が強くなったからってそのまま仕返ししてたら、お前もそのガキと同じだからな! 大人で社会人で、挙げ句仕事としてダンジョンのラスボスやってるなら、思慮分別くらいはちゃんとやれっ!」
「す、すいません」
遮二無二がなり立てた私がいた所で、アナンシは素直にシュンとなる。
全く......調子に乗るんじゃないよ。
けれど、そこまで悪いヤツではなさそうだ。
守護霊もそこまで黒くない。
......ちょっと、黒ずんでいるのが気になるがな。
何はともあれ。
「ま、今後はラスボスらしい立ち振舞いが出来る様な実力は備わった事だけは確かだし、お前もそれで満足だろ......ま、それでももう少し強くなりと思ったのならいつでも私の所に来れば良いさ。ちゃんと鍛えてやらんでもないからな」
そうと答え、私達はダンジョンから裏山の入り口へと戻って行くのであった。
●○◎○●
攻略終わって、陽が暮れる。
なんだかんだと色々あったが、裏山ダンジョンの異変は伝承の道化師のせいだと言う、おおよその予測から一ミリだって揺るがない結果が分かっただけに終わった。
まぁ、多少難易度が上がりはしたが......思えば、このダンジョンはただの練習場でしかないのだから、必ずしもクリアしないと行けないと言うルールはない。
ぶっちゃけて言うのなら、このダンジョンをクリアしていようといまいと、学園での成績や内申点に変化が生まれる訳ではないのだ。
......まぁ、完全攻略まですれば、多少は変わって来るかも知れないけどな?




