上位魔導師のお仕事【15】
……と、この様な事情により、私達はフラウの初仕事を完遂する為、トウキの郊外へとやって来た。
一応、トウキ都内ではあるのだが……ハッキリ言って、かなりの郊外と言える。
周囲には建物と言う建物はないし、数キロは歩かないと人里と呼べる場所に到達する事すらない。
尤も、数キロばかり人里方面へと向かえば、そこにはトウキの街並みがパノラマで広がっていたりもするのだが。
閑話休題。
「こんな所だって知ってたら、私だって好んでやって来なかったよぉぉぉっ! もっと珍しい観光地とか、オシャレなカフェとか、おいしー食べ物がある場所だと思ってついて来たら……お化け屋敷に案内されたんだよ? もう、これ……詐欺じゃないっ⁉︎」
ルミは半ベソ状態になって、私へと叫んでいた。
もう、悲痛の胸の内を、あらん限り口から放出している感じだった。
しかしながら、私は言いたい。
「最初から観光地に行く……だ、なんて言ってないだろう?」
答えた私は、それとなくフラウへと視線を向けた。
直後、フラウは即座に頷く。
「そうだね。確かに言ってないよ? むしろ、仕事だ……って、何回も言ったけど? 観光地とか云々ってのは、ルミが勝手に想い描いてた妄想じゃない? そんなのを、私達に言われても困るんだけど?」
ほら、みろ。
やっぱり、こう言う正論が飛び出して来るじゃないか。
「うぅぅぅ……だって……だって! こないだのリダは、世界規模の危機が迫っている、危険な戦いになる!……とか言って、普通に観光して来たばかりだったじゃないの! そんなの、私だって行きたいぃぃっ! うわ〜んっ!」
「毎回そうなると思うんじゃないよ!」
とうとう泣き出してしまった我儘姫に、私はソッコーでツッコミを入れた。
ルミが前回のキータを引き合いに出す度に思う事なのだが、私だって本意でキータへと行った訳ではないし、観光だけで終わってしまったのは結果論に過ぎない。
そもそも、毎回単なる観光で終わってしまうのであれば、私だってそこまで渋い顔なんかしないし、面倒だとも思わないだろうよ……。
「ああ、もう! 面倒だ! どうせ怖くて一人で帰れないと言うのなら、一緒に行くぞ! 私が近くに居てやるからついて来い!」
「……ぐすっ……う、うん、分かった。じゃあ、リダにしがみついてるね」
そう答えたルミは、宣言通り私の背中にしがみついていた……えぇい! 暑苦しいわぁっ!
「おまっ!……いきなり引っ付いて来るんじゃないよ!」
「良いじゃないの! 減る物じゃないんだからっ!」
「減るんだよ! 私の気力と体力がっ!」
煩わしさの不快度指数120%で答えた私に……しかし、ルミは死んでも離さないぞ! 的な感覚で反論していた。
「無駄に仲良いね? ルミ、リダ?……もしかして、百合?」
直後、失笑半分のままフラウが言って来る。
分かってて言っている分、物凄く質が悪かった。
「気を付けて下さい。奴は自分が犯人であり……尚且つ、我々が犯人を突き止めている事実を知っております。いきなり凶悪なトラップが仕込まれているかも……って、聞いてます? ちょっと?」
程なくして、周囲に注意を呼びかける形で口を開いたアレフ支部長がいたんだけど……私の鼓膜に届く事はなかった。
トラップがあるって?
だからどうした?
ハッキリと言うのであれば、ここに私を黙らせる程の凶悪なトラップが隠されているとは思えないね?
確かにトラップの『様な物』があるのは知っていた。
ここの主が魔導師だけあって、魔導トラップの様な物が仕掛けられている事は、この屋敷の入り口前に立った瞬間に分かったし? そもそも支部長に言われるまでもない事実であるとさえ思っていた。
けれど、私は言いたい。
こんなちゃっちいトラップで、私を止められると思っていたのなら、実におめでたい奴であると。
入り口ドアは、屋敷らしく大きな門の様な物になっていた。
取っ手の様な物があって、それを掴んでボタンの様な物を押すとドアが開く模様だ。
単純にデカいドアって感じだな?
その瞬間、
バリバリバリィィィィッ!
強烈な電撃が放出される。
……ふぅむ、なるほど。
電撃が放出された瞬間、私は右手に魔力を込め……反魔法を発動させる。
その結果、私はあたかも絶縁体でも手にしていたかの様に、ドアからやって来る電撃をシャットアウトしていた。
……子供騙しかな?
ドアを開けると、頭上から大岩が落ちて来る。
そして、止まった。
理由は言うまでもないな? 私が右手を頭上に上げる形で、大岩をキャッチしたのだ。
キャッチした大岩は、間もなく室内ロビーなのだろう広間の部分へと、ポイッ! っと捨てる。
ズズゥゥゥンッ……ッ!
床に落ちた大岩は、地味に重低音を出しながら転がり……そして止まる。
なんだこれは? 黒板消しトラップかな?
こんな物に引っ掛かる奴は、新任の教師ぐらいな物だぞ?
ハッキリ言って、私的には舐められている様な気持ちで一杯だった。




