上位魔導師のお仕事【11】
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支部長室なのだろう部屋に案内された私達は、整然とした如何にも金の掛かってそうな部屋にやって来た。
流石はトウキの支部長と言うべきか?
私の部下が同じ事をやったのであれば、100%間違いなく『無駄金掛けるんじゃないよ!』と、大声で叫んでやりたくなる程度には豪奢な部屋だ。
周囲には、どっかの有名な画家が書いたんじゃないのかな?……って感じの美術品が置かれている。
浅学の私にはサッパリ理解出来ない美しさが映える、謎の絵画だった。
こう言うのは、見る者が見れば分かる代物なのかも知れないが……私には何処がどう美しいのか? 微塵も理解出来ないなぁ……いや、まぁ……別にどうでも良いんだけど。
そんな事より、仕事の話しだったな?
「では、話しを聞こうか?」
室内にあったソファへと座った私、ルミ、フラウの三人が、用意された紅茶を軽く口に含んだ所で、私は口火を切る形で声を吐き出した。
「分かりました。それではお話しをさせて頂きます……皆様は、魔導師の世界一を決める祭典があるのをご存知でしょうか? 四年に一度開催される、世界規模の大きな大会がそうです」
……ああ、もちろん知ってるぞ?
これでも冒険者協会の会長だからな?
主催は魔導師協会ではあるのだが、共催で冒険者協会もこの大会に携わっている。
冒険者協会は、基本的に全ての職業組合に対し、共催と言う名目でなんらかの補助金や援助金を歳出しているからな? むしろ知らない方がおかしな話しだ。
……尤も、それは飽くまでも私が会長である事、前提ではあるのだが。
今の私は、単なる学生のリダさんだから、この様な話しから入ったに違いない。
「もちろん知ってます! 魔導師であるのであれば、一生に一度はその国の代表として出場したい大会の一つだと思ってると思います!」
アレフ支部長の言葉に、フラウは誰よりも早く声を返していた。
イケメンアピールと言う側面もあったのだろうが、実際にフラウの言っている通り、魔導師を志す者であるのなら、大なり小なりの興味を持って然るべき大会でもある。
この大会で優勝すれば、世界最強の魔導師を名乗る事が出来るのだから、魔導師からすれば、これ程の名誉はないと言えるだろう。
「私も知ってますよ。お父様が毎回巨額の資金を援助していて、四年に一回だけ嘆息混じりになって『たまにはニイガでやってくれないかなぁ?……さして経済効果もない物にここまでの金を出すのは、国の財政圧迫に繋がってさぁ……』って感じのぼやきを良く言う様になるので、私も悟るのですよ?『ああ、今年は魔導師の世界大会がある年だったのか』って」
そこからルミが、悪びれた風もなく支部長へと語ってみせる。
ルミ本人からすれば、他愛のない家庭内での会話だったのだろう。
……でも、その話しを魔導師協会の関係者に言ったら、きっと涙目になりそうな気がするんだが?
「はは……ははは……ルシェンド王が、その様な事を……そ、その……次回と次々回の開催先は決まっているので、その次に行われる国にニイガを推奨して置きますので、どうか御一考なさって欲しいと伝えて置いて下さい」
アレフ支部長は、地味に焦った顔になってルミへと答えていた。
ほら見ろ……地味に涙目だぞ、おい。
しかしルミはアレフ支部長の表情を気にした風もなく、
「そうですか? 分かりました! かなり先になるかも知れないけど、自国開催の可能性を、魔導師協会が忖度してくれると、後でお父様に伝えて置きます」
にこやかな笑みで声を返していた。
きっと、ルミの口から大会の支援金について苦言を呈していたニイガ王がいた事実に大きなショックを受けていた……なんて事は、一ミリも理解していないだろう。
天然マイペース姫のオツムには、毎度驚かされる。
……てか、話しが遅々として進まないのだが?
やれやれ、仕方ないな?
「話しの続きと行こうか?……それで? 魔導師の世界大会がどうかしたと言うのか?」
それとなく話しの方向を本線へと戻す為、私はアレフ支部長へと尋ねた。
「はい……ここが問題になっております。この大会に優勝すると、優勝した魔導師協会の支部に優勝トロフィーが『一時的に与えられる』事となります」
「……ああ。そう言えば、そんなルールだったな?」
アレフ支部長の説明を受けて、私は軽く相づちを打った。
ポイントは『一時的に』と言う部分だな?
どうしてこの様な表現になってしまうのか?
理由は簡素な物だ。
このトロフィーは、言うなればチャンピオン・ベルトと同じ様な性質を持っているんだ。
つまるに、優勝すると優勝国の協会に保管され、厳重体制を敷いた上で展示される。




