上位魔導師のお仕事【9】
「はは……ははっ! そ、そうだよね? うん! ぼ、僕もね? ちょっとおかしいと思ってたんだ? だって、あの会長だよ? 冒険者の頂点に立っている、最強の冒険者と名高い、あのリダ・ドーンテン様が、こんなむさ苦しい所に来るとは思えないし……何より、そんな偉い人が来られたら僕のチキン・ハートが一瞬で粉々になっちゃうからね!」
アレフ支部長は、尚も私へと叫ぶ様にして口を開いていた。
支部長の時点で、結構な地位を持っているのだから、そこまで身構えなくても良いと思うのだが。
……ってか、だ?
「次に、その隣にいる天然ボケ担当にして、怠惰の世界代表を狙える娘は、ルミ・トールブリッジ・ニイガ。名前を聞けば分かるかも知れませんが、ニイガ王家の人間です……ってか、姫です」
「ルミって言いま〜す! 姫してま〜す! 趣味は魔導書を読む事で〜す! フラウ・フーリ・ペッタン子の友人してます!」
「私の名前はペッタン子じゃないからっ!」
やおら明るい自己紹介をして来るルミに、ソッコーでツッコミを入れるフラウがいるのだが……ここは、まぁ……ヨシとして置こう。
いつもの事だからな?
問題は次だ。
「……え? えぇっ⁉︎ ニイガのお姫様?……って事は、あのルミ姫様っ⁉︎」
アレフ支部長の顔が、見る間に豹変していた。
なるほど、確かに小心者の様だ。
相手が恐ろしく偉い人間であると分かった瞬間に、泡でも吹いて倒れそうな精神状態になっている。
まぁ……しかし、これが普通の反応だ。
一国の姫……しかも、現状で第一王位継承権を持っている、次期女王が陽気に自己紹介なんぞしているのだ。
嫌でも畏まるだろう。
挙句、ニイガの次期女王と来た。
魔導師協会のお膝元であり、本部がある国でもある。
魔導大国・ニイガ……と言う名前は伊達や酔狂で呼ばれている訳ではない。
世界最先端の魔導力を持つ、極めて優れた魔導大国であるが故に、総本部もトウキではなくニイガに置かれている程だ。
そこの次期女王が、なんの前触れもなく……いきなりバッタリと鉢合わせとかしているのだから……
「こ、これは誠に失礼致しました!」
……と、慌てふためいて声を張り上げたあと、素早くルミの前に跪く行為へと発展してしまうのは、至極真っ当な話しでもあった。
「えぇ……どうしよう、リダ? この人、いきなり平伏して来たよ? 頭おかしいんじゃない?」
直後、苦々しい顔になってルミが私へと小声で言って来た。
至って一般的な態度だと思うんだが?
「大丈夫だルミ。私からすればアレフ支部長のやっている事の方が一般的だと思うから」
「そ、そうかなぁ……だって、私……ここでは単なる学生だよ?」
そう思っているのはお前だけと言う事実に早く気付いて欲しい所だ。
何はともあれ。
ルミは完全に平伏状態に会ったアレフ支部長を見て、大きく困惑していた。
そもそも、姫と言う身分をなんの躊躇もなく、初っ端から曝け出している時点で、こうなる事は簡単に予想が付いたと思うぞ?
それで気付かない天然ボケな己を呪う事だな!
「と、ともかく! 普通に立って下さい! その……わ、私は普通の姫ですから!」
姫の時点で普通ではない事を知らない天然ボケの姿がそこにあった。
「姫様がそう仰られるのであれば、仰せのままに」
「あの、だから、そう言うのは良いので! 普通にして下さい! 私も普通の姫をしますから!」
……だから、姫の時点で普通じゃないんだってば。
きっと畏まった態度を改めて欲しいと本気で思っているルミがいるのだろうが、その言葉に大きな矛盾点が存在している事に気付く様子は全く見られなかった。
ま、そこは気にしない事にしよう。
見ていて面白いし。
「……えぇと、では、アレフ支部長。また、何処かでお会いしましょう? 可能なら、デートでも良いですよ?」
程なくして、フラウが笑みのまま右手を振って答える。
呼吸をするかの様にデートの誘いを入れている模様だが……コミュ障と言う設定は何処に行ったのかな?
「待ってくれないか? フラウさん? きみは今日、魔導師協会にやって来た目的を教えてくれ……多分、新しい仕事を受注しに来たとは思うんだけど」
「ええ、その予定です……が、アレフ支部長がデートのお誘いをして下さるのであれば、ソッコーでキャンセルする予定でもありますよ?」
直後、声を掛けられたアレフ支部長に対し、またもやデートの誘いを口にするフラウの姿があった。
……いや、お前……全然コミュ障じゃないだろ?
あれか? イケメンは別……ってか?
その時点で、何かがおかしいと言う事に、良い加減気付くべきだと思うぞ、私はっ!




