上位魔導師のお仕事【6】
しかし、フラウのヤツは、そもそも受注する仕事すら、まだ決めても居ないと言う……途方もない無計画っぷりと来た。
この調子だと、ちゃんと受注してから以降も、色々とズボラな一面を見る羽目になるかも知れない。
「冒険者の仕事は、仕事二分・段取り八分だぞ? 準備の方が重要なんだぞ? 馬鹿なのか? 初心者なのか? 胸がないのか?」
「胸は関係ないでしょっ!」
額に人差し指を当て……頭痛薬が恋しい心境になっていた私に対し、フラウはこれでもかと言わんばかりのがなり声を上げて来た。
確かに胸は関係なったから、私としても反論する事は出来なかった。
くそ! こんな時ばかり、無駄に正論を言って来るとは!
「ともかく! 準備の方はちゃんとするし、仕事も明日にはちゃんと受けるつもり! 重要だったのは『リダが居るか居ないか』だったから、そっちを先に確認して置きたかったの!」
更に捲し立てる形で言うフラウ。
……ふむ。
「私が断ったら、ソロ確定になるからか?」
「当たり前でしょ! だから、先に確認したんじゃないの」
なんでそれが当たり前と考えるのかを、私は逆にフラウへと問いたいのだが?
「大丈夫だよ、フラウ! リダが行かないのなら、私も行かないから!」
程なくして、ルミが満面の笑みで、全然大丈夫じゃない台詞を爽やかに語っていた。
……つまるに、だ?
私が来れば、もれなくルミもホイホイついて来る。
そうなれば、仕事の難易度も大きく変わって来る為……先に受注せずに、まずは私の所に来たと言う事か。
「本当、地味に打算的なヤツだな」
「計画的と言って」
私の言葉に、フラウは断崖絶壁の胸を大きく張って答えていた。
……はぁ、やれやれ。
「取り敢えず、リダが一緒に行ってくれて、ルミも来てくれるのなら、多少難しい仕事でも大丈夫……って事だし、私も安心して受注する事が出来るってモン? むしろ、ちょっと楽しみになって来た!」
そうと答えたフラウは、表情も明るくなっていた。
……うむ、そうな?
フラウの場合は、まだ魔導師協会の仕事をそこまで受注した事はなかったのだろう。
当然と言えば当然だ。
フラウはまだ学生なのだから。
まして、今回受けるのは、確実に高難度と形容して良い代物になる。
実力は申し分ないフラウであっても、まだまだ場数を踏んで居ない経験不足な部分は、やっぱりどうしても不安要素となってしまうし、どうしても払拭する事が出来ない。
それらを総合的に加味するのであれば、私の様な上位ランクの冒険者が一緒に行ってくれれば、その不安要素を根こそぎ払拭する事が出来ると言う訳だ。
……やれやれ、仕方のないヤツだな。
「まぁ、分かったよフラウ。それじゃあ、今回の所は一緒に行ってやるから、ちゃんと魔導師協会の仕事の流れを覚えるんだぞ?」
「もちろん! そこは任せて!」
「うむ! 良い返事だ! ついでに、近所の協会に所属している人とも軽く挨拶とかして、今後のパーティーに加わっても良いかどうかの話しもして置く様に!」
「……ごめん、ちょっと持病のコミュ障が痛くて……そこは難しいかも!」
お前のコミュ障って持病なのっ⁉︎
「いやいや、お前……仮に持病だったとして……それで、身体の何処が痛くなると言うんだよ?」
「心が痛くなるに決まってるでしょっ⁉︎」
フラウは超絶真剣な顔なって、私へと訴え掛けて来た。
……ヤバイなコイツ。
こんな台詞を、サラッと真面目に言う人間なんて、早々居ないぞ?
お前……どんだけ、心が荒んでいると言うんだ?
「じゃあ……今回は、ルミと一緒に魔導師協会の面々と挨拶すると言うのはどうだ?」
妥協半分に、私は答えてからルミの方へと目を向けた。
その瞬間、ルミは嫌な汗を額から流しながらも、私の視線から逃れる形でフイッ! っと目を逸らしていた。
………。
お前ら……そんなんじゃ、マジで友達が出来ないと思うぞ?
初っ端から前途多難な雰囲気を感じつつ……その翌日に、私達は近所にある魔導師協会の建物へと向かって行くのだった。
◯◯◯◯●
学園から徒歩十数分程度の所にある、大きな建物。
昨今は、魔導技術が大きく発展したと言う事もあり、鉄筋コンクリート製のビルも増えつつある。
尤も、増えたとは言え、超高層ビルの様な代物が建つのは、まだ少し先の話しになりそうではあるんだがな?
そこらはさて置き。
周囲には、まだ数階建ての建物しかない中、地上100メートル級の大きさを誇る、タワーマンションの様なビルの前にやって来ていた。
「ここが、魔導師協会のトウキ支部だったのかよ……知らなかった」
フラウに案内される形でやって来た所で、ようやくここが魔導師のトウキ支部の建物である事を知った私は『へぇ〜』って感じで、軽く見据えていた。




