上位魔導師のお仕事【3】
「……ま、そうだね? まずはリダが来てくれるかどうかで、今回の仕事はかなり変わって来るから、リダの気が変わらない内に話しておくね?」
言うなり、フラウは私の部屋へと入って行った。
正直、フラウのペースになってしまった気がして……ビミョーに釈然としない。
しかしながら、あそこで前回のキータ話しなんぞされた日には、絶対にフラウとルミのダブルパンチで私へと恨み節をかまして来るに違いないだろう。
それは嫌だ!
ここらを加味するのであれば、面倒な話しを小耳に挟む程度で済むのなら安い話し……と、割り切るしかないだろう。
思った私は、ルミとフラウの二人を自室へと招き入れた。
フラウの話しが始まったのは、そこから数分後の事だ。
一応は客人として私の部屋にやって来ているので、茶の一つぐらいは出そうと、キッチンで紅茶を用意した後に、軽く茶菓子などを見繕ってリビングへとやって来た所で、フラウの話しが始まったのだ。
「まずは……これを見てくれない?」
私が持って来た紅茶を軽く口に含んで間もなく、フラウはポケットをゴソゴソとやり出す。
しばらくしてポケットから取り出したのは……カードかな?
見る限り、それは魔導師協会のカードに見えた。
見た目は冒険者協会のカードとそっくりではあるのだが、作成している組織のマークが魔導師協会の物だった。
カードがそっくりなのは他でもない。
基本的に、この手のカードには一定の規定の様な物がある為、どれも似たり寄ったりな代物になるからだ。
ただそれだと、何処の組織が作ったカードなのか分からなくなってしまう為、作成した組織のエンブレムと言うか、ロゴの様な物がカード裏面にデカデカと表示される。
このロゴみたいな物で、何処の組織が作ったカードなのか一目瞭然になる訳だ。
……んで、魔導師協会のカードだと言うのは分かったが、これがどうかしたのだろうか?
見る限り、カードはフラウの物だな?
名前と顔写真まであるのだが、完全にフラウの物で間違いない。
「そこのランクを見て? 凄くない?」
「……ランク?」
フラウに言われて、ランクが記されている部分を見る……うむ、ランクSか。
「こないださ? 上位魔導師になった事で一気にランクが上昇したんだよねぇ〜? 私!」
「ほうほう、それで? もしかして、自分のランクを自慢しに来たのか?」
ちな、私のランクはL+だぞ?
世界最高のレジェンド・ランクなのだが?
「ちっ違うし! ランクの部分はルミに自慢したいだけだし!」
結局自慢したいんじゃないか。
私は地味に呆れた。
「でも、Sランクは凄いねぇ〜。私は、まだ協会に入ってないから、ランクとかないよ」
他方のルミは、フラウのカードを見て素直に褒めてみせる。
「そうでしょ! そうなんだよ! これぞ上位魔導師! って感じがしないっ⁉︎」
褒められたフラウは、テンションをうなぎ上りに上昇させ、高揚した顔のまま宗谷岬の様な胸を誇り高く『えっへん!』っと、張ってみせた。
「うんうん! するする! これでもう、一人前の魔導師だね!」
完全なる天狗状態と化していたフラウを前に、ルミは更に褒めちぎっていた。
そんなに煽てるなよ、ルミ……フラウをあんまり調子に乗らせると、大体はロクな事にはならないんだからな?
「……と、こんな感じでね? ランクがドドーンッ! っと上がったんだけど? さ?……ここで問題が発生しちゃたんだよねぇ?」
「……? 何?」
「実はさ? Sからはランク・ダウンもあるんだよ……これが」
「え? そうなの?」
説明半分に答えるフラウに、ルミはちょっとキョトンとした顔になる。
実はそうなのだ。
主にランクS以降から適用される場合が多いのだが、これは魔導師協会に限った事ではなく、他の組合などでも割と適用されているルールだ。
詳しく語ると長くなってしまうので、ザックリとだけ述べよう。
一応、Sランクよりも下位のランクであっても、降格してしまう危険性は全くのゼロではない。
しかし、Aランクまでは、基本的になんらかのペナルティによる降格が大半だ。
例えば? なんらかの悪さをして……それが見付かってしまい、降格処分を喰らう……と、こんな具合だ。
所が、ランクがSになってしまうと、これ以外の理由でも降格の危機に瀕してしまう。
……ふむ、なるほど。
ここに来て、私はフラウが何を言いたいのか分かった。
Sランクになると、一定期間内に多少の成果を求められる。
つまるにノルマの様な物がある訳だな?
……で、そのノルマを達成する事が出来ないと……降格。
極端な話し、S+であってもA+まで降格してしまう可能性すらあったのだ。




