上位魔導師のお仕事【1】
「リダ、話しがあるんだけど」
「断る!」
「待って! ねぇ? おかしくないっ⁉︎ 私、まだ何も話してないよっ⁉︎」
これが、そもそもの発端であった。
どう言う風の吹き回しか? 普段通り授業を終え、アリンと一緒に帰宅して間もなく、神妙な顔付きのまま学園寮の自室へと押し掛けて来たフラウが、私の部屋にある玄関代わりのドアに立って最初に開いた第一声が、冒頭の台詞だ。
そして、無駄に真剣な顔になっていたフラウに負けず劣らずな真剣さを見せて、キッパリと断りを見せる私の姿があった!
「せめて話しぐらい聞きましょう? それからでも遅くはないと思うんだけどっ⁉︎」
「いや、聞いてからじゃ遅いと思うから、最初に言って置きたいんだ……こう見えて、私は胸元に断崖絶壁を抱える女のお世話をする程、暇人ではない!」
「じゃあ、私は大丈夫だね? だって、断崖絶壁な胸をしてないもの」
宗谷岬みたいな胸を張って言うんじゃないよ!
……はぁ……やれやれだ。
私的に言うのなら、これは絶対に余計な厄介話しを持って来たと思っている。
もはや確定だろう。
内容はもちろん知らないが、知ったら絶対にフラウは私へと無理難題を吹っかけて来るだろう。
フラウ・フーリと言う女は、そう言う奇抜な性質の残念女であるからだ。
「ともかく、何がしたいのかは知らないが他を当たれ……私だって日々、子育てやら家事やらで忙しいんだ」
私は苦々しい顔をしながらも、胸中で嘆息混じりに答えた。
「その割には、暇そうにしてない? アリンちゃんも今日は居ないんでしょう?」
「アリンのヤツは、隣の部屋にいるよ……最近は、学校から帰って来ると『親友の所に行って来るお〜!』って、鼻息荒くして駆け出してくよ」
……お陰で、ここ最近の私はアリンの相手をする必要もなくなっているから、部屋でゴロ寝タイムを満喫する傾向にあるんだけどな?
………。
い、いや……だからと言って、暇を持て余していると言う訳ではないぞ?
ちゃんと、アリンが隣で遊んでいる間に、夕食の準備とか掃除とかしてるからな?
最近は、アリンが風呂とトイレ掃除をしてくれる様になったので、結構助かってはいるけど……でも、全くの暇と言う訳ではないのだ!
「……で? 今のリダは何をしてるの?」
「ん? 最近はシズ1000から貰ったタブレットで動画を見てたりするな? シズ1000の端末に近い物を持っている魔導師とかが、他に一定数居るらしくて、結構色々な人が動画を作っていてさ? それを見て楽しんでる」
「へぇ〜? それで? 良い暇潰しになったりする?」
「ああ、これが結構良い暇潰しになってさぁ? 本当、便利だと……い、いや! 違うぞ? これは単なる家事の合間とかにやる息抜きの一環だ! 常日頃から見ている訳じゃないし、ちょっとだけしか見てない!」
「……本当かな? 実は、結構見てたりするんじゃないの?」
……ギクッ!
ニヤリと笑みを作りながらも答えるフラウに、私はちょっとだけ図星を突かれた様な顔になってしまった。
「あれ? フラウじゃない? どうしたの? また、抜け駆けの話しでもしてた?」
……と、そこで思わぬ角度からルミの声がやって来る。
基本的にルミは私の部屋の隣である関係もあって、割りと良く遊びにやって来ていた。
特に最近は、ルゥ姫とアリンの二人が秘密の親友遊びをしているらしく、良く部屋を追い出される傾向にある。
私としては『秘密の親友遊びってなんだよ?』と、地味に言いたくなってしまうのだが……ルミ曰く『宇宙語の様な単語の羅列を使っていて、何をしているのか良く分からなかった』らしい。
とどのつまり、ディープな人形コレクターの話題で盛り上がっているのだろう。
そして、何を言われているのかサッパリ分からないルミが、一人だけ流れ小島のど真ん中辺りに立っている様な疎外感チックな顔をしていたりするので……居た堪れなくなったアリンとルゥ姫の二人が、気遣ってルミを私の方に寄越しているのかも知れない。
少なからず、私の部屋でそんな事をされたらたまった物ではない。
そして、私も私でアリンがルミの部屋へと上がり込んでいる関係上、ルミを私の部屋にあがらせない訳にも行かない。
これらの関係もあり、私は良くルミを自室に招いては、
「ねぇねぇ、リダ? 昨日のにゃん子動画……可愛かったよねぇ〜っ! あれ、もう一回見ようよっ!」
シズ1000から貰ったタブレットを使って、動画を見に来る。
……まぁ、別に構わないんだけどな?
私もにゃん子動画好きだしさ。




