パインとココナッツとお母様【16】
「……あっ! コラ、待ちなさいリダァッ!」
空に逃げた私を見て、ルミは厳しい顔をしながら怒声を飛ばして来た。
しかし、空まで追いかけて来る様子はない。
他方のフラウも以下同文。
互いに滑空魔法を発動する事は可能ではあったのだが……私の速度について来れる程の魔力は存在していなかったからだ。
もっと言うのであれば、二人の姿は制服姿。
この状態で大空高く飛んでしまった日には、下半身が残念な事になってしまう。
もちろん、それは私も同じ条件と言えるのだが? そこはそれ、ちゃんと対応策を考えてあるのだ!
前に変態へと講じた手段……スカートの中に光魔法を発動させる方法が、ここで役に立った訳だ。
流石の私も、空飛ぶ猥褻物にはなりたくないからなっ!
ちゃんと策を練って、しっかりと対処した上で、空を飛んでいるのだよ!
……と言う訳で、制服姿のまま空を飛ぶ対処法を知らないルミやフラウの二人からは、ここでお別れとなる!
取り敢えず、明日以降が怖いが……明日の事は明日の私に任せるとしよう!
「うむ! 今日も空が綺麗だ!」
天高く舞い上がり、学校の学舎が豆粒程度の大きさになった辺りで、私はゆっくりと空を見上げた。
空は穏やかに……地平線の彼方まで続いていた。
何かと高層建築物の多いトウキではあるが、高度数百メートル程度まで上昇すれば、そこはもう地平線の彼方まで見下ろせる様な状態と言える。
厳密に言うと、建物ばかりが雑多に見える地平線と言う……なんとも特殊な形ではあったのだが。
こうして見ると、やはりトウキと言う街は無駄にデカい。
ずぅぅぅぅっっっと向こうまで見る事が出来ても、やっぱりそこに建物があり、街が続いているのだから。
キータの街も、キータ国の首都だけあり、決して田舎街と言う訳ではないのだが……トウキと比較すると、やはり比較出来ないばかりの規模があるな。
「……思えば、トウキって無駄にデカイ街の様な気がするなぁ……」
軽く見渡しながらも、私は独りごちる。
現状では、世界最大の都市でもあるトウキ。
まぁ、飽くまでも暫定であり、これから時代の流れによっては他の都市にナンバーワンの座を奪われる時がやって来るかも知れないけれど……今の所は他を寄せ付けぬ規模の大都市だ。
そして、そこが私の地元でもある。
「私もシテー派な女って事で良いのかねぇ……」
苦笑混じりに、私は答えた。
別に都会っ子であれ、田舎育ちであれ、そこに差を求める必要はないと思うんだが……妙にしつこく拘ってみせたココナッツ様がいた事を思い出して、ちょっぴり苦笑してしまった。
同時に思う。
ココナッツ様は、上手にやって行けるのだろうか?……と。
心配した所で私が何か出来る訳でもないし、問題が解決し……パインと仲直りを果たした事で、私が出来る事は全て終了している。
つまるに、ここから先はココナッツ様とパインの問題と言う事になりそうだ。
尤も? 問題はあの二人だけで終わるとは思えない。
パインとココナッツ様の二人にとって、一番の焦点はやはりミナトであろう。
そして、二人にとっての悲願はミナトと結ばれる所にあると思う。
和解こそしたかも知れないが……それでも、二人の間に新たな不和が発生するのなら、ミナトに関係する事なのではないか? そう思えてならない。
そして、この部分に焦点を当てるのであれば、パインとココナッツ様『だけではない』と、私は確信している。
私が知る限り、シリアと言うお嬢様もまた、ミナトに惚れていた。
そうなると?……だ?
構図的に、ミナトはこの時点で三股よろしく状態になってしまう。
厳密に言うのなら、三人の異性に愛される……と、こうなる訳だな?
この時点で波乱の予感しかないんだが……どうなのだろう?
その時、パインとの関係はどうなるのか?
ココナッツ様は笑っていられるのか?
ミナトは……誰を選ぶのか?
「………考えるのをやめにするか」
頭の中で整理する感覚で思考を張り巡らせる私であったが、そこで考えるのをやめる。
思えば、これは当人同士の考えだ。
全くの第三者でしかない私が、あれこれと考える様な代物ではないだろう。
つまり、考えるだけ野暮な話しであったのだ。
……ま、なんにせよ、だ?
私が望むのは、大した事じゃない。
みんながみんな、一定の相互理解をした上で、納得出来る様な終止符を打って欲しい。
これだけと言える。
なんと言っても、前回が前回だからなぁ……。
シズ1000の話しを聞いただけではあったが、アダムとか言う少年は、真面目に最低かつ自分本意な終止符を打ってくれた物だと、呆れるばかりだ。
今回こそは、その様な愚行にだけは走らないで欲しいと、願うばかりだな!




