パインとココナッツとお母様【15】
「……ほうほう? それは、ちょっと興味深い話しだね? リダをボコボコにするには適切な内容になりそう☆」
程なくして、顔が怖い事になっていたルミが、軽やかな口調でアリンへと声を返していた。
軽やかと表現していたが、実際の所は結構ドスの効いた声質と言える。
……いや、ルミさんや? アンタお姫様だろうっ⁉︎
「そうだねぇ……そこは私も気になるかな? 学校を公欠扱いで休みまで貰って置いて……その実、単なる観光だったなんてさぁ? しかも、私達を意図的にハブって置いて……だよね?」
ワンテンポ置いてからフラウの声が私の耳に転がって来る。
地味にゆらぁ……っと動いているその姿は不毛なばかりに不気味で、何処か混沌チックな怒りのオーラで渦を巻いていた。
「お、お前ら……落ち着け! わ、私だって実際に行ってみて分かった事なんだぞ? ほ、本当だぞっ⁉︎ ここからキータ国へと向かう前までは、かなり危険な事になると思っていたからこそ、お前達をトウキに置いたままで向かったんだから!」
超濃度の怒気を孕め、グォグォと無駄に渦巻いてくれちゃっているルミとフラウの二人がいた事に気付いた私は、アタフタしながらも必死で弁明していた。
私的に言うのなら、お前らは最初からイシュタル様に頼まれてなかったんだから、どの道キータに行く事はなかったんじゃないのか?……と、言いたい。
もっと言うのなら、私だって本意でキータへと向かった訳ではない!
成り行き上、仕方なく……マジで仕方なく、かなり気乗りしないまま、渋々と許諾する形でキータへと向かったんだからなっ!
だから、置いてけぼりを喰った!……的な言い方をするんじゃないよ!
むしろ、私が置いて行かれたかったんだよっ⁉︎
こうと、私は思い切り叫んでやりたい気持ちで一杯だったのだが……それは叶わぬ状況と言えた。
どうしてか?……って?
フラウとルミの二人の雰囲気が、それを無言で拒否っていたからだよっ!
もう、な?……こうぅ……何を言っても聞いてくれそうにない顔を、露骨に私へと見せていたのだ。
「………」
私は無言になる。
程なくして、私はある一つの真実に気付いた。
今日の私は公休扱い。
つまり、このまま帰っても問題ない。
なんなら、ここで授業に出席しようとしまいと、普通に出席扱いと同じ状態になる訳で。
それなら、私の取る方法は一つしかない!
「すまないフラウ、ルミ……私、ちょっとアレがこうで、トイレに行って来るから……うん、そう言う訳だから」
言うが早いが、そう答えて席を立った。
そこからは早かった!
「は? アレがこうって、どう言う意味? トイレに行くだけの理由で、どうしてそこまでこじつけた理由が欲しいの? しかも言葉を意味する肝心な部分の単語が『アレ』とか『これ』になって……って、コラッ! 逃げるな、リダァァァッッッ!」
地味にボケた台詞を言う私にツッコミを入れていたフラウがいた頃には、私は教室を抜けていた。
……ふっ! どうだ、フラウよ?
そのボケた台詞にツッコミを言わせる事で大きな隙を作らせると言う、私の新たなる戦法はっ⁉︎
我ながら、中々の策士だと思うぞっ!
自画自賛しながらも、私は廊下を爆走する。
「逃がさないよ、リダ!」
直後、背後からルミの声がした。
「何っ⁉︎ ルミは私のボケに反応しなかったと言うのかっ⁉︎」
「私はボケ担当だから! ツッコミはしない主義なのっ⁉︎」
なん……だと……っ⁉︎
私の計算された狡猾な罠に、その様な盲点が存在していたとはっ⁉︎
思わぬ弱点が存在していた事実に、私は今後の改良案を作り出さなければならない! と、心に誓った!
「コラッ! 廊下は走らないっ!」
直後、正面から大声で注意される……って、リーナ?
「……あら? リダさん? 廊下は走ったら駄目だと言う事ぐらい分からないの?……って、アレ? なんで貴方がここに?」
……と、担任でもあるリーナが軽く小首を傾げていた頃、私は無視する形で担任とすれ違った。
「間違って登校したんだ! 明日からよろしくっ!」
「……間違え?……まぁ、公休ではあるけど……って、そうじゃなくて! 廊下は走ったら駄目だと言ってるでしょっ⁉︎」
すれ違い様、軽く声を掛けた私に、リーナ先生は再びがなり声を上げるのだが、
「先生! 私、お腹痛いんで早退します!」
元気一杯な声で、仮病率120%な台詞をほざくルミと、
「先生! 私、心が痛いんで早退します!」
早退理由としては無理がある台詞を臆面もなく語るフラウの二人が、勢い良くリーナ先生の前を駆け抜けて行った。
私的には、フラウもボケキャラな気がしてならないぞ!
つか、いつの間にか追いつかれたかっ!
くそっ!……仕方ないっ!
思った私は、廊下の窓を素早く開くと、そのまま滑空魔法を発動させ、大空の彼方へと飛んで行った。




