リダさん、裏山探検に向かう【12】
「じゃあ、なって見ろよ?」
そう答えたのは、パラスだった。
どうにも信用出来なかったのか?
パラスは完全に疑念の目でアナンシを見ていた。
まぁ、でも、ナンシーさんだしなぁ......私もちょっと驚きはしたけど、なんだかんだでハッタリなんじゃないかって思えてしまう。
「良いでしょう......私の力が偽物ではないと言う事、とくと見るが良い!」
そうと、アナンシが気迫を込めて叫んだ瞬間......ヤツは化けた。
見る間に変化した怪物は......えええぇぇ。
私は口元を引き釣らせた。
ヤツが変化したモンスターは、ガルムと呼ばれる怪犬。
四つの目を持ち、常に口から血をしたたらせる冥界の門番。
ここでも門番してるからか? 門番繋がりなのか?
ともかく、ケルベロスとかと同じ扱いの怪物犬でもある。
当然だが......本物同然の能力があるのなら、洒落になってない強さを持っている。
くそ......こんな所で、予想もしない難敵に出くわすとは。
「下がれ、みんな......ここは、私がやる!」
叫び、真剣な顔になった私は、
超攻撃力上昇魔法レベル99!
超防御力上昇魔法レベル99!
超身体能力上昇魔法レベル99!
龍の呼吸法【極】
瞬時に最強状態になって見せた。
ドンッッッッ!
刹那、急激な能力上昇によって、私の身体から急上昇したエネルギーの余波が衝撃波になって周囲に撒き散らされる。
この衝撃波により、
「うきゃぁぁぁっ!」
半べそのまま、ルミが吹き飛ばされ、
「リダのばかっ!」
フラウが悪態を吐きながら吹き飛ばされ、
「な、なんだこれはっ!......うぉわぁっ!」
最後に、なんとか踏ん張っていたパラスまでも吹き飛ばされていた。
......いけね。
「悪い悪い......まさか、全員吹き飛ぶなんてさぁ......」
私は思わず苦笑しながら、周囲にいる全員に謝って見せた。
......ん?
......全員?
「......あれ?」
小首を傾げた。
さっきまでいた、口から血を流している四つ目の怪犬までいない。
......ってか、一緒に吹き飛んでるのですが?
『なんだと......貴様! この姿の私を気合いだけ吹き飛ばすだと......? どんな化け物だ!』
ガルムになってたアナンシは、ワナワナと身体を震わせていた。
......いや、ちょっと?
「本物のガルムなら、あの程度の衝撃波なんて......そよ風だぞ?」
うーむぅ。
ちょっと聞きたいんだが......。
「なぁ、ガルムになってるナンシーちゃん?」
『せめてアナンシと呼んでくれないか?』
「いや、まぁ、そこはなんでも構わないんだけど......」
私は額に人差し指を当ててから言った。
「お前......ガルムの強さがどの程度なのか知ってるか?」
『今の私と同等だ!』
「......」
私の目が半眼になった。
やたら自信を持って言ってる様だが、私の見立てでは......。
「今のお前は、強さ的に言うと本物のガルムの十分の一程度しかないぞ? 下手すればそれ以下だ」
『な、なんだとっ! 言いがかりはよせっ!』
言い掛かりかどうかは、多分すぐに分かる事だと思うんだがなぁ......。
「つまるに、こうだ。お前は確かに変化する事で、コピーした存在と同じ能力を手にする事も可能になった。ここは事実なんだろう......が、だ?」
そこまで言った私は神妙な顔付きになり、ビシッと指を差して叫んだ。
「お前の身体が持つキャパシティー以上の能力は完全にコピー出来ない!」
よって、ヤツは一定以上の強さを越える事が出来ない。
上限値を越える能力をコピーしてしまうと、ヤツの身体がその膨大なエネルギーに耐えられなくなり、変化したと同時に身体が崩壊してしまうからだ。
この辺は自分でも無意識にやってるのかも知れない。
何せ、自分にリミッターが付いていた事に気付いてないみたいだしな。
余談ではあるが、この上限値は努力次第で底上げする事が可能なのかも知れない。
......しかし、だ?
「本物の十分の一にも満たない実力で、この私に勝てると思っているのか?」
私は不敵に笑った。
ガルム本来の力なんか、コイツが見ている訳がない。
しかし、十分の一程度であっても、ヤツからすればかなりのパワーアップだ。
そこでヤツは勘違いしてしまうのだろう。
自分は、全ての能力を完全にコピーする事が可能になったと。
『だまれっ! その高慢な態度をすぐに矯正してくれる!』
叫んで、ガルムになったアナンシが私の首筋を食いちぎろうと襲い掛かる。
......はぁ。
これだけ言っても、まだ分からないのかねぇ......この駄犬は。
首筋までやって来て、鋭い犬歯を見せつつも口を大きく開けて来たガルムもどきに、私は右手を軽く捻って見せる。
ヒュッッ!
捻る感じの右手は、
ガンッ!
裏拳の状態でガルムもどきの左頬を痛打して見せた。
この一撃で、ガルムもどきは一瞬で吹き飛んでしまう。
裏拳チックに左頬にめり込むと、音速以上の早さで吹き飛んで、
ドカァァァァァッ!
広間の壁に激突していた。




