パインとココナッツとお母様【12】
「ふむ、そうですね。アリンではないのですが、あの田舎者がやったにしては、上出来の空間転移魔法だったのではないでしょうか?」
そしてユニクスまで、ココナッツ様をナチュラルにディスっていた。
いや、もうココナッツ様は居ないから、好きに言わせて置くんだけどさ。
……さて。
「取り敢えず、帰る事にしようか」
そうと答えた私は、軽く歩き出した。
空間転移魔法によってワープ・アウトした先は……さっきも述べたかも知れないが、私が住んでいる学園の真ん前。
もっと掘り下げてしまえば、学園寮の眼前であったりもする。
やっぱり空間転移魔法って便利だな。
アリンが実用的なレベルまで、空間転移魔法を改良しているみたいだし……今度、アリンのヤツにどんな魔導式なのかを聞いてみるのも悪くはない。
……でも、アリン式だと事故る可能性があるんだったか。
けれど、事故率も限りなくゼロだしなぁ……一億分の一未満と言う危険性に怯えていたら、列車にだって乗れないだろうし。
「帰ると言いますと……自室に戻るのですか?」
歩き出した私に、そこでユニクスが軽く声を掛けて来る。
帰宅以外に選択肢があると言うのか?
「そりゃそうだろう? 他に何があると言うんだ?」
「確かにそうなのですが……今の時間って、何時ぐらいでしょう?」
さも当然とばかりに答えた私へと、ユニクスは地味に神妙な顔になって声を返した。
「そろそろ10時だお〜」
ユニクスの質問に素早く答えたのは、アリンだった。
答えたアリンは、シズ1000から貰っていたタブレットの画面をユニクスへと見せる。
何気に時計代わりにもなるんだな? これ。
「10時か。まだ昼食を食べるには早過ぎる時間だな」
アリンが見せていたタブレットの画面を私も軽く見据えてから口を開く。
……思えば、さっき弁当を食べたばかりだったから、腹は全く減ってなかったのだが。
他方、ユニクスは時計の時間を見た上で、
「……で、帰るんですか?」
再び、眉間に皺を寄せながらも私へと同じ質問をして来た。
お前は何が言いたいんだよ?
「二度も同じ質問をするなよ……やっと自分の部屋に戻って来たんだ。今日ぐらいはゆっくり羽根を伸ばすのも悪くないだろう?」
私は不思議そうな顔になりながらユニクスへと声を返した。
さも、仕事をしました! 的な発言だったかも知れないけど、直接は言ってないからな?
飽くまでも、やっと住み慣れた場所に戻って来れた……という部分を強調しているだけだ。
それだけなのだ!
てか、そうしてくれないかなぁ……100マール上げるから!
「このまま学園寮に戻ったとしましょう? 果たして本当に羽根を伸ばす事が可能だと、リダ様は思いますか? 今日は平日です。普通に『学校は授業を行っております』よね? そんな状態で学園寮に戻ったら……どうなると思います?」
な、なるほど?
それは、一般的に見ると……ズル休みと捉え兼ねない案件だな。
「……えぇと……う〜ん……まぁ、そうな?」
ここに来て、ようやくユニクスの言いたい事が分かって来た。
つまるに、私達は『早く帰り過ぎた』のだ。
これが空間転移ではなく、普通に滑空魔法を使ってキータからトウキへと帰って来たとしよう?
飛んでいるスピードにもよるが、結構な時間を掛けてトウキまで帰って来る事になった筈だ。
この場合であれば、途中で休憩を挟んだりもして、トウキに戻って来る頃には夕方程度になってしまう可能性すらあった。
……テキトーに食事休憩がてら、休憩先にある名所を軽く寄り道観光したりもすると、なんだかんだで一日が潰れる。
これはこれで、旅の醍醐味と言うか、なんと言うか。
しかしながら、今回に限って言うのなら、これがない。
もう、綺麗サッパリ! 塵も芥もなかった!
……ふ。
やっぱり空間転移も良し悪しか。
こうも素早く戻って来てしまうと、時間が無駄に余ってしまう事に繋がる。
同時に、それは……
「お? そうか〜! 今からなりゃ、三時間目には間に合うお? か〜たま、ガッコー行くお〜!」
……って言う顛末へと向かってしまうのだ!
なんて事だ……思わぬ盲点だったぞ……。
「アリン、良く聞いて欲しい。今日はどんな日だ? キータくんだりまで行って来て、色々と疲れている日だろう? 今日は休息日で良いと思うんだ? そう思わないか?」
「お? アリン、全然疲れてないお? だって、疲れる様な事とかしてないかりゃ〜」
素直過ぎるぞ! アリンちゃん!
「それより、アリンは親友に、キータで貰ったハーピーちゃんとプラムちゃんと華岳ちゃんを早く見せたいんだお!」
そして、アリンちゃんは何しに学校へ行く気なのかなっ⁉︎
瞳をキラキラさせながら、真面目なんだか不真面目なんだか良く分からない台詞を、臆面もなく私に叫んでいた。




