パインとココナッツとお母様【9】
……もはや、トラウマになっているまである!
あんな思いをする位なら、私は絶対に滑空魔法で帰るね!
だが、その反面……ルミは普通にアッサリと……挙句、自分でも気付かない内にワープアウトまでしていた。
ここを加味すると、アリンなりに創意工夫を繰り返しする事で、トンネル部分を限りなくゼロにして来たのではないのだろうか?
例えば、長さ数ミリの異空間トンネル……とか、だ?
もはや、それはトンネルと呼んで良い物なのかどうか分からない代物であるのかも知れないが、例えその長さが一ミリであろうと一ミクロンであろうと『亜空間をワンクッション置いている』と言う事実には変わりない。
むしろ距離が短ければ短いだけ、より瞬間移動に近付く為、アリンとしても空間転移魔法をちゃんと完全な物に仕立て上げた事にも繋がる。
……うむ、なるほど。
「なぁ、アリン? アリンの魔法は亜空間ホールを使ってるんだろう? 長さはどの程度だ?」
「お? んと、1プランクだお!」
………。
超紐理論の世界かな?
しれっと戯けた数値を言って来たアリンちゃん。
尚、1プランクとは、原子の中にある素粒子に存在している紐の様な物(厳密には違うのだが、イメージとして紐を連想してくれたら幸い)が持っている長さを指す。
時間と空間が幾重にも入り乱れた、特殊な世界から見る事の出来る長さなのだが……うん、ここを話すとハチャメチャに意味不明な言葉の羅列になってしまうから止めて置こう。
一応、長さだけ言っておく。
1.6×10のマイナス33乗センチだ。
うん、意味不明過ぎる値だな。
もはや、そこまで短くする必要があったのだろうか?
別に、1アト・メートル(マイナス18乗)とかでも良かったんじゃないか?
ともかく、アリンに妥協は許されないらしい。
同時に安心した。
そこまで究極に短い亜空間トンネルであったのなら、異次元に引き込まれると言う……以前の様な恐怖体験をする事は絶無だろう。
「長さを1プランクにすりゅ事で、亜空間での事故を一億分の一未満にしたんだお! これで安心だお!」
それでもたまに事故るんだ……。
まぁ、一億分の一未満って事は、コンビニの弁当を食べたら食中毒になった……ってのと同じレベルなのだから、ほぼほぼないだろう。
でも、トコトン運がないと、あの恐怖体験をする羽目になるのな?
………。
ど、どうしよう。
ちょっと怖いんですが?
そんな事を考えている時だった。
「ああ、まだ帰ってなかったのね?……まぁ、良かったわ?」
聴き慣れた声が、思わぬ角度からやって来た。
見れば、そこにはりんごさんの姿と、
「およ? なんだ、リダ? まだ居たの〜?」
居て悪いか! って言いたくなる様な台詞を臆面もなくほざくみかんの姿があった。
いよかんさんとういういさんの二人は居ないな?
「なんだよ、お前ら……冷やかしか? つか、いよかんさんとういういさんの二人が見当たらない模様だが?」
「ああ、ういういさんといよかんの二人なら、きりたんぽ鍋が食べたいと言ってたです。きっと近くで食べてるのかもですよ〜」
「フツーに観光してるのな?」
私はちょっと苦笑混じりに答えた。
別に悪いと言っている訳ではないぞ?
みかん達にとって、観光もまた、一つの楽しみなのだから。
「そりゃ観光しますよ〜。だって、暇なんだもの」
みかんは胸を張って断言していた。
そこを断言するんじゃないよ! 恥ずかしくないのかっ⁉︎
地味にツッコミを入れたい衝動に駆られる私がいたのだが、そこは敢えて口にはしなかった。
言えば疲れる! それも鉄板で!
「……まぁ、そこは良いとして……何か用事があって来たのか?」
「みかんは無いよ〜? 強いて言えば、リダ本編で自分の出番を増やしたいだけ〜」
未だ、変な所に妙な拘りを持っているのか……コイツは。
ナチュラルにふざけた事をほざくみかんがいる中……そこでりんごさんの口が動いた。
「腐れキノコに常識で物を語ると、発狂したくなるでしょうから、私が代わりに答えるわ?……取り敢えず、これを見て頂戴?」
言うなり、りんごさんは右手を軽く虚空へと向ける。
すると、私達の前に地図の様な物が浮かび上がった。
地図の内容は……首都・トウキの地図かな?
「ココナッツはキータ育ちだからね? トウキの座標は知らないと思うのよ?」
「んなっ⁉︎ 御母様! それは聞き捨てなりません! 私は身も心もシテーな女神なのですから!」
「……なら、アンタがトウキに行ったのって、いつよ?」
「……え? えぇと……百年前?」
地図見て! マジで見て、ココナッツ様!
りんごさんの質問に、オドオドした顔で答えたココナッツ様の言葉を聞いて、私は心からりんごさんが見せている地図を絶対見て欲しいと願わずにいられなかった!




